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そんなこんなを思い出しながら
ほうれん草を絞っていると、
スマホがブーブー鳴り出した。


『もしもし大ちゃん?』

『ひか!ちょっ…今から来れる?!』

『今からぁ〜?何時だと思ってんの?』

『今何してんの?』

『冷凍する用のほうれん草茹でてた』

『そっちこそ何時にほうれん草茹でてんの?!
 いや頼む!お願い!薮ちゃんぶっ潰れちゃって…』


言われた通りに店に行ってみたら、
言われた通りにぶっ潰れた薮がいた。


「何でこんななってんの…」

「いや、薮ちゃん…いや…」


どうも歯切れが悪い。
別に俺に今さら気なんか遣わなくて良いのに。


「………なに、彼女と別れでもしたの?」

「ちが、違くて!
 薮ちゃん…、薮ちゃん、」


がしって俺の腕を取る大ちゃん。
めっちゃ必死でちょっと可愛い。


「薮ちゃん、ひかに結婚するよーな人が居るっぽい、
 って、それで…。めっちゃ凹んでめっちゃ飲んで…」

「………は?」

「それで…だから俺、そんなはずはないって、
 絶対ない!!!って。
 だってひかがめっちゃ節約してんのってだって」

「ちょ、ちょっと待って大ちゃん、それ言ったの?」

「言っ………………………てない」


目が合わない。声が小さい。
そうか。言ったか。
額に手を当て漫画のように天を仰いでいると、


「…ひかる、」


とうめき声のような薮の声が聞こえてきた。


「…やぶ、だいじょーぶ?」

「ひかる、」


大丈夫?と訊いて、ひかる、と返ってくるなら
きっと大丈夫じゃないんだろう。


「やぶ、帰るよ。送るから」

「ひかる、俺ひかるんちいっぱい行くから。
 これからいっぱい行くから…。
 ……そんでいつかさ…一緒に………」

「………え?」

「………zz」

「おい、やぶ、寝んなって!いつか何だよ?!」

「………zzz」

「大ちゃん!今やぶ何つった?!」

「………zzz」

「おい大ちゃん寝んなって!!!
 俺さすがにふたりは運べねーよ!!!」



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作者名:ponpoco | 作成日時:2021年3月22日 23時

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