知らなかった景色 ページ8
「もうっ、何やってるのよ...！」
口ではそう言いながらも
私は今もの凄くバンビに感動していて
だってこんなにも自分を必要としてくれる存在、今までいなかった
実の母親でさえ
私を必要としてくれなかった
「傷がひどくなったら、どうするの...？」
喉の奥が潰れそうな程苦しいのは
間違いなく泣くのを我慢しているからで
「バンビ...」
そんな私を
バンビは両手に挟まれた大きな瞳で
ただじっと見つめていた
.
「バンビ、着いたよ？」
後をついてくるバンビのペースに合わせ
ゆっくり車を走らせやって来たのは
さっき居た場所から
少し上った所にある駐車スペース
車を3台程並んで停められるそこからは
見下ろす町とその向こうに、うっすら広がる海が見える
もちろん夜には夜景も
元々車通りの少ない道なので
たまに停まっている車を見かけるくらいで
案の定今日も一台の車も停まっていなかった
ここなら、ゆっくり過ごせそう
「ほらバンビ、ここにおいで？」
小さな愛車のボンネットに腰掛け
バンビに隣に来るよう促す
「ほらバンビ、綺麗でしょう？(笑)」
もうすぐ陽が落ちる町並みは
その全てがオレンジ色に包まれて
ハッとするくらいの美しさ
「わぁ...(笑)」
綺麗でしょう、なんて言っておいて
柵の向こうに広がる景色に
私自身が圧倒されてしまった
「綺麗だねぇ...」
夕陽に染まる町が
こんなにも綺麗だったなんて、知らなかった
バンビが追いかけて来なければ
きっと知らないままだった
「バンビ...」
そっと手を伸ばし
同じものを見ているであろうバンビの背中に優しく触れる
「バンビにも、同じ様に見えているのかな」
犬は白黒に見えているって聞いた事があるけど
鹿はどうなんだろう
「...同じ様に、見えてるといいな」
大きな瞳で、真っ直ぐ前を見つめるバンビにも
穏やかで少し切ないこの景色が
同じ様に見えているといい
.
その日私達は
陽が暮れるまで移り行く町並みを
眺めていた
.
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ami(プロフ) - まこさん» まこさん、夏目漱石のエピソード、素敵ですよね。流石偉人は違います。妄想当初はもっとムードある流れで使おうかと思ったのですが、気付いたらこんな感じに(笑)拾って頂けて嬉しかったです！ありがとうございます。引き続きお付き合い下さいね。 (2021年7月14日 17時) (
レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
まこ(プロフ) - amiさん！更新ありがとうございます。まさか。ここで大好きな夏目漱石の訳に会えるなんて泣素敵ー！これからも楽しみにしています。 (2021年7月14日 16時) (レス) id: c043fdfdb9 (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - tamaさん» tamaさん、切なさ感じて頂けて嬉しいです。バンビはどこへ行ってしまったのか。今後の更新で明らかにしていきますね。お話に共感して下さり励みになります。 (2021年7月6日 15時) (レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
tama(プロフ) - 切ない…バンビどこ行っちゃったのかな。 (2021年7月6日 0時) (レス) id: 2b3dad8b2a (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - 千衣さん» 千衣さん、それはもう「人にあらず」でしょうか(笑)悪の経典は観てないですが。←更新楽しみにして下さって励みになります！ありがとうございます。 (2021年7月5日 22時) (レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ami
| 作成日時：2018年1月16日 1時
