増していく愛着 ページ5
二十一で私を産んだ母
でもその3年後には離婚をし
半ば押し付けるように祖母達に私を預けた
元々留守がちな人ではあったけれど、気付いた頃には完全に家からいなくなっていた
つまり、捨てたのだ私を
そんな人が生きていようが死んでいようが
正直どうでもいい話で
以前は感じていた憎しみも今となってはもう過去の物
できるならこの先もずっと
私の人生に絡んでくる事がないよう願うばかりだ
「...あ」
あのコだ...
ちょうど昨夜倒れていた辺りに差し掛かると
左脚に私が巻いたスカーフをつけた鹿がいた
相変わらずびっこを引いている後ろ姿に
スピードを落としゆっくり近付く
「おーい、大丈夫かぁ？」
真横で車を停め
開けてあった窓から声を掛けた
ジィッ...
覚えているのかいないのかわからない瞳で
じっとこっちを見つめるバンビ...
うん...そう、バンビ
このコ、バンビにそっくり！
明るい所で見ると
大きな瞳が小さい顔の中で一際目立ち
長い睫毛といい、本当にそっくり
「バンビ(笑)」
人間とは不思議なもので
名前をつけた途端、相手への愛着度が増す
「怪我はどう？ちょうどよかった。
今日はね、薬を持ってきたの」
鞄の中にしまってあった薬を手に車を降りた
そのまま前に回り、徐々に近付く私を
やはり覚えているのかいないのかわからない瞳でじっと見つめている
「怖がらなくていいからね。
薬を塗るだけだから」
手にしていた薬を顔の横で掲げて見せた
とは言え、おばあちゃんお手製の薬だけど
ツーンと鼻をつく甘いアルコールの匂いが特徴的な液体で、何が入っているかは不明
私も怪我をする度この薬をつけられて
でも不思議と治りがいいから驚き
フンフンッ...
これは、覚えていたと言ってもいいのかな？
目の前まで来ると、バンビは顔を近付け
まるで匂いを嗅ぎまくる犬のように私の胸の辺りに鼻を擦り寄せた
鹿の生態には詳しくない
だからコレが何を表しているのかわからないけれど
少なくとも敵とは思われていないよう
「よしよし
薬を塗るからちょっと待っててね」
そっと頭の辺りを一撫でして道路にしゃがみこんだ
.
スルッ...
止血の為に巻いていたスカーフを外し
清潔な布に染み込ませた薬をそっと患部に当てる
その間もバンビはとても大人しくしていて
「バンビはお利口さんだね」
なんて言いながら
まだまだ痛々しいそこに
時間を掛けて薬を塗ってやった
.
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ami(プロフ) - まこさん» まこさん、夏目漱石のエピソード、素敵ですよね。流石偉人は違います。妄想当初はもっとムードある流れで使おうかと思ったのですが、気付いたらこんな感じに(笑)拾って頂けて嬉しかったです！ありがとうございます。引き続きお付き合い下さいね。 (2021年7月14日 17時) (
レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
まこ(プロフ) - amiさん！更新ありがとうございます。まさか。ここで大好きな夏目漱石の訳に会えるなんて泣素敵ー！これからも楽しみにしています。 (2021年7月14日 16時) (レス) id: c043fdfdb9 (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - tamaさん» tamaさん、切なさ感じて頂けて嬉しいです。バンビはどこへ行ってしまったのか。今後の更新で明らかにしていきますね。お話に共感して下さり励みになります。 (2021年7月6日 15時) (レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
tama(プロフ) - 切ない…バンビどこ行っちゃったのかな。 (2021年7月6日 0時) (レス) id: 2b3dad8b2a (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - 千衣さん» 千衣さん、それはもう「人にあらず」でしょうか(笑)悪の経典は観てないですが。←更新楽しみにして下さって励みになります！ありがとうございます。 (2021年7月5日 22時) (レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ami
| 作成日時：2018年1月16日 1時
