掴まれた手首 ページ38
ほどなくして消えたエンジン音
辺りが一気に静まり返った気がした
年甲斐もないスキニーデニムに
ヒールのあるパンプス
ふわっと香った香水はキツくて
今にも吐きそう
「...ごめん」
力なくその場にしゃがみ込み
砕けた湯呑みに手を伸ばした
「いいの？お母さん」
「...ッ！」
「会いたかったんじゃ、ないの？」
破片で切った指先に
うっすらと浮かび上がる血
会いたかった...？
「そんな事・・・」
「嘘だ」
気付くと屈んだバンビの顔が目の前に迫り
手首を両手で掴まれていた
「痛い...離して」
私を見つめる、バンビの真剣な瞳
「ほら、血が出てるから」
ギュッ...
指先から垂れる血に
バンビも気付いているはずなのに
尚もキツく握り締めてくる
まるで自分の本当の気持ちから
目を逸らすなとでも言うように
「Aから伝わってきた
お母さんのコト話してる時」
案の定、バンビに私の気持ちは伝わっていて
「悲しみと、寂しさ
もっと自分を愛して欲しいって」
...だけど
「...るさい」
「A...？」
だけど
「うるさいッ！！」
「...！！」
それを認めるのは、あまりにも酷で
認めたら母に愛されてない私は
生きている価値すらないんじゃないかって
「バンビにはわからない」
キュッと口元を固く結んで、再び言葉を振り絞る
「わからないよ...」
「A...」
正直、今にも泣きそうだった
俯く私の手首から
バンビの力が抜けていくのがわかる
諦めたんだ、バンビも説得を
「ごめん、お風呂入るね...」
大声を出して驚かせてしまった
「パン買ってきたから食べて」
バンビの言うことは、何も間違ってないのに
...ずっと
ずっと愛されたかった母に
酔っぱらった時だけじゃなく
いつでも私の事、抱き締めて欲しかった
「...ッ、うっ」
その日お風呂で久々に母の事で泣いて
「今日は、こっちで寝るから」
バンビが来て初めて、別々の部屋で寝た
久しぶりの自分のベッド
別々に寝ても、どうせ朝には
忍び込んできたバンビと一緒になるから
暮らし始めて早々に座敷に布団を並べた
「A、もう寝た...？」
襖の向こうからバンビの声
そう言えばお月見やるの忘れてた
おにぎり食べるの、楽しみにしてたのに
「...おやすみ」
今度こそ諦めたのか
その言葉を最後に襖の前からバンビの気配が消えて
翌朝、ほとんど眠れずに目を覚ますと
「バンビ...？」
バンビは家から姿を消していた
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ami(プロフ) - まこさん» まこさん、夏目漱石のエピソード、素敵ですよね。流石偉人は違います。妄想当初はもっとムードある流れで使おうかと思ったのですが、気付いたらこんな感じに(笑)拾って頂けて嬉しかったです！ありがとうございます。引き続きお付き合い下さいね。 (2021年7月14日 17時) (
レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
まこ(プロフ) - amiさん！更新ありがとうございます。まさか。ここで大好きな夏目漱石の訳に会えるなんて泣素敵ー！これからも楽しみにしています。 (2021年7月14日 16時) (レス) id: c043fdfdb9 (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - tamaさん» tamaさん、切なさ感じて頂けて嬉しいです。バンビはどこへ行ってしまったのか。今後の更新で明らかにしていきますね。お話に共感して下さり励みになります。 (2021年7月6日 15時) (レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
tama(プロフ) - 切ない…バンビどこ行っちゃったのかな。 (2021年7月6日 0時) (レス) id: 2b3dad8b2a (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - 千衣さん» 千衣さん、それはもう「人にあらず」でしょうか(笑)悪の経典は観てないですが。←更新楽しみにして下さって励みになります！ありがとうございます。 (2021年7月5日 22時) (レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ami
| 作成日時：2018年1月16日 1時
