出会い2 ページ3
「うゎ...最悪」
すぐに頭を振って
脳裏に浮かびかけた映像をかき消した
こんな誰もいない山道で車を降りるなんて
何が出るかわからないし、できればしたくない
ほら...
あの真っ暗な茂みの奥なんて
得たいの知れない何かが、今か今かと隙を狙って蠢いていそう
でも...
.
どうするか少し迷った挙げ句
車を端に寄せ
ハザードランプを点けて車を降りる事にした
「せめてもう少し端に寄ってくれれば...」
恐怖をまぎらわす為
相変わらず独り言を口にして車を降りる
ピクッ...
その途端、気配を察したのか道路に埋めていた顔をゆっくり上げて鹿がこっちを見た
「大丈夫、大丈夫だから...」
何が大丈夫なのか
それは一見
鹿に対する言葉のようであって、実は違う
初めて野生の鹿と対峙する自分に向けられたもの
要するに怖い、目の前のこの鹿が
私は恐る恐る足を進めると鹿に近寄った
「うわぁっ！」
その直後、鹿が前脚をついて起き上がり
ヨロヨロとこちらに背を向けて歩き出した
「そう...それでいいのよ、それで」
湿った嫌な風が
弱々しく呟いた声を
不気味な森の奥へ連れ去っていく
「あっ...！」
そんな中、思わず今日一番の叫び声を上げてしまったのは
ヨロヨロと歩く鹿が
ガクンと膝を崩し今にも道路に倒れそうになったから
それでも何とか持ちこたえて
びっこを引きながら必死に前へ進んでいく
残された最後の力を懸命に振り絞って
「・・・・」
.
...あれじゃあきっと
明日の朝までもたないかもしれない
脚をやられた動物は
彼らの天敵のかっこうの餌食だから
うっすらと感じるやるせない気持ちを抱えながら車に引き返した
.
目的は果たした
これなら明日の朝
地獄絵図を目にすることはまずないだろう
ハザードランプを消し
サイドブレーキを下ろしてアクセルを踏む
依然としてライトに照らされた先には
ヨロヨロと力なく鹿が歩いていて...
.
徐々にアクセルを踏み込むと
既に下り坂になった坂道
一気に鹿を追い越した
すぐにバックミラーに目をやる
当然そこにはびっこを引きながら
それでも前を目指す鹿の姿
キキィッ...
.
この時どうして車を停めたのか
見ての通り間違っても動物愛好家などではない
まして野生の鹿
できれば今すぐここを立ち去りたいのに
「怖がらなくて、いいから...」
気付くと道路に膝をつき
ついに力尽きて横たわる鹿の身体に
そっと手を伸ばしていた
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 622人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「東方神起」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ami(プロフ) - まこさん» まこさん、夏目漱石のエピソード、素敵ですよね。流石偉人は違います。妄想当初はもっとムードある流れで使おうかと思ったのですが、気付いたらこんな感じに(笑)拾って頂けて嬉しかったです！ありがとうございます。引き続きお付き合い下さいね。 (2021年7月14日 17時) (
レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
まこ(プロフ) - amiさん！更新ありがとうございます。まさか。ここで大好きな夏目漱石の訳に会えるなんて泣素敵ー！これからも楽しみにしています。 (2021年7月14日 16時) (レス) id: c043fdfdb9 (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - tamaさん» tamaさん、切なさ感じて頂けて嬉しいです。バンビはどこへ行ってしまったのか。今後の更新で明らかにしていきますね。お話に共感して下さり励みになります。 (2021年7月6日 15時) (レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
tama(プロフ) - 切ない…バンビどこ行っちゃったのかな。 (2021年7月6日 0時) (レス) id: 2b3dad8b2a (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - 千衣さん» 千衣さん、それはもう「人にあらず」でしょうか(笑)悪の経典は観てないですが。←更新楽しみにして下さって励みになります！ありがとうございます。 (2021年7月5日 22時) (レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ami
| 作成日時：2018年1月16日 1時
