"いいもの" ページ16
じっと私を見つめる瞳は
まさしく"バンビの瞳"そのもので
.
「よ、よっつめ...
その話を聞いたのはどこ？」
有り得ない事が
今正に現実になりそうで
動揺で声が震えている
「さっきから変だよ、A。
どうしてそんな事聞くの？」
「いいから答えてっ！」
ビクッ！
思わず荒げた声に彼が驚いて体を揺らした
「え、えっと...山の中。
いつもAと会ってたところ」
...なんかもう、泣きそうなんだけど
「...そこから」
「え...」
「そこから何が見える？
私と"バンビ"は、何を見ながら話していたの？」
私今、必死だ
必死で...
目の前の彼を否定しようとしている
当然そんな事知る由もない彼は
慌てて話を続けた
「や、やけいと」
夜景と？
「うみ...？」
「・・・・」
「夜景」と「海」
どちらもバンビが知らないと思って
私が教えた言葉...
鹿が人間と違って
実は色盲だったと知ったのはその後で
もしかしたらバンビは
夜景も海も、それが一体どんなものなのか
全く理解していなかったのかもしれないと気付いて
一人笑ったこともあったっけ
もちろん、夕陽に包まれた町並みも
「...他には？」
「え...」
「他には何を見ながら話したの？」
もう、顔を上げる事さえできない
「わからない、あれが何て言うものなのか。
Aが教えてくれたのはそれだけだったから」
...やっぱり
間違いなく彼はバンビ
私が景色に関して彼に教えたのは
確かその二つだけだったから
「でも...」
でも？
「それが全部
"いいもの"だって事は知ってる」
「...どうして？」
「だってAから伝わってきたから」
「え...」
「あったかい気持ちと、幸せな気持ち」
あったかい気持ちと、幸せな気持ち...？
「あと、少しだけ寂しい気持ちも」
「・・・・」
.
ねぇ、バンビ...
それは言葉にしなくても
全て伝わっていたって、こと？
例え見える世界が違っても
私達は確かに同じ物を見て
同じ気持ちを共有していたって、こと？
ハッとするくらい綺麗だった
あのオレンジ色に染まった町並みも
.
「A...？」
一歩こっちへ近付いた足が歪んで見えるのは
間違いなく
感動で泣きそうになっているからで
でもそれと同時に
恐怖に似た感情を
その足元に感じているのも確かで
「A...！」
ただ零れそうになる涙をグッと堪え
一人家の中へと逃げ込んだ
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ami(プロフ) - まこさん» まこさん、夏目漱石のエピソード、素敵ですよね。流石偉人は違います。妄想当初はもっとムードある流れで使おうかと思ったのですが、気付いたらこんな感じに(笑)拾って頂けて嬉しかったです！ありがとうございます。引き続きお付き合い下さいね。 (2021年7月14日 17時) (
レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
まこ(プロフ) - amiさん！更新ありがとうございます。まさか。ここで大好きな夏目漱石の訳に会えるなんて泣素敵ー！これからも楽しみにしています。 (2021年7月14日 16時) (レス) id: c043fdfdb9 (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - tamaさん» tamaさん、切なさ感じて頂けて嬉しいです。バンビはどこへ行ってしまったのか。今後の更新で明らかにしていきますね。お話に共感して下さり励みになります。 (2021年7月6日 15時) (レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
tama(プロフ) - 切ない…バンビどこ行っちゃったのかな。 (2021年7月6日 0時) (レス) id: 2b3dad8b2a (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - 千衣さん» 千衣さん、それはもう「人にあらず」でしょうか(笑)悪の経典は観てないですが。←更新楽しみにして下さって励みになります！ありがとうございます。 (2021年7月5日 22時) (レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ami
| 作成日時：2018年1月16日 1時
