届いた気持ち ページ29
「はい」
手にした物を差し出すと
「シム君、コレ...」
一之瀬さんが少しだけ驚いた顔をした
「美味しいって言ってたよね。
買ってあげるって前に約束したから...」
僕の手から
綺麗にラッピングされた柚子茶の瓶を
震える手で受け取る一之瀬さん
「今までありがとう。
一之瀬さんと話せて、正直僕は楽しかった」
俯きじっと柚子茶の瓶を見つめる彼女
ポタッ...
その大きな瞳から一粒涙が落ち
黄色いリボンに小さなシミを作った
実はこのラッピング
今朝Aさんがやってくれたもの
きっと僕と一之瀬さんの
今後の関係を心配して...
ホントならこんな事したくはないだろうに
だってもし僕がAさんなら
絶対嫌だ
でもAさんは
僕が少しでも大学で楽しく過ごせるようにって
やってくれたんだ
いつだってAさんはこうやって
僕の事を自分の気持ちよりも大事にしてくれる
そんな優しいAさんの気持ちが
少しでも彼女に届くよう祈りながら
「じゃあ、そういう事だから...」
僕は校舎に向かって歩き出した
そんな僕を一之瀬さんが
大きな声で呼び止めた
「シム君っ！」
その声に振り返ると
周りの学生が何事かと僕達に注目する中
目に涙をいっぱい溜めた一之瀬さんが叫んだ
「ありがとう、シム君っ！
これを飲み終わる頃には、きっと前みたいに話せるようになるから...」
Aさん...
「そしたらまた
私の話を笑いながら聞いてくれるっ...？」
Aさんの優しい気持ちが
一之瀬さんに届いたよ
「うんっ！(笑)」
「...(笑)」
僕の返事に
一之瀬さんはいつもと変わらない
とても綺麗な顔で微笑んだ
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作者名：ami
| 作成日時：2014年3月21日 0時
