真夜中19回目 ページ19
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『永瀬くんはさ、失恋したことある?』
「ない」
『気持ちいいくらいに即答だね』
「というより、そこまで人を好きになったことがない」
『ああ、そっち』
「お前の失恋の相手ってどんなやつ?」
『先生はね…
ガタイが良い割に可愛くて
やることしっかり出来るのに天然で
大人なのにフワフワしてて
いつもニコニコ笑ってて
時々良い香りの香水つけてて
大きな手で撫でてくれて
私が集中してなかったら叱ってくれて
勉強大変でも投げ出さないで
CMソング大熱唱して
それから………「わかった!わかった…」
「……もういい」
『うん』
「先生なん?」
『うん。
中2のときに家庭教師してくれた先生。
私の初恋。』
「少女漫画かよ」
『それで、今は私のお姉ちゃんの婚約者』
「…………は?」
『今年の春からうちで同棲してるの。
だから毎日失恋。』
「……………」
『忘れようにも忘れられなくてさ』
「…………せやな」
『さっき寝ようとしてたら隣から声聞こえて』
「おん」
『たぶんヤってた』
「…………おん」
『同棲してるんだし子供じゃないんだし、当たり前なんだけどさ、、初めて聞こえたの。』
『ちょっと、無理でさ。気づいたら自転車ぶっ飛ばしてた。』
「そういうことか」
『ありがとう。話したら少し落ち着いてきた』
「辛かったな。お疲れさん」
『家帰らなくて大丈夫?』
「友達ん家に泊まるって言ってきた」
『え?今日帰らないの?』
「お前帰らんやろ?付き合うたるわ」
『ああ、そっか…そう、だな。
今日は帰りたくない、かな』
「明日休みやしな。オールやオール」
『永瀬くん明日部活は?』
「この前足捻ってん。治るまで休み」
『え、大丈夫?』
「こんくらいすぐ治る」
『そっか。』
そしてまた私たちは黙った。
夏の虫たちの声と、遠くに聞こえる車とバイクの排気音。
いつもとは全く異なる世界に、夢を見ている気分になった。
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作者名:ぱぴこ | 作成日時:2019年5月30日 22時