かつてはミルクカラー ページ8
『いま電話いい?』
次の日の夕方、わたしは自宅へ帰ってそう送った。実家にいれば黙っててもご飯が出てきてお風呂も沸いて洗濯も回って最高だし、いつもなら日曜日の夕方頃までは粘るんだけど。
……あ、結局、危惧していた夢は見た。主人公はわたしと伊沢くんじゃなくて、あの頃のAちゃんと拓司くんだった。幸せそうな初々しいふたりを第三者目線でなぞった夢。
見た目こそやわらかいミルクカラーのフィルターがかけられたようなぼんやりとしたものだったけれど、幸せだとか愛だとか、かたちのないものばかり妙にはっきりとしていた。第三者目線で見ても、当時の思い出と照らし合わせてみても。
それなのに、はやくこの夢を忘れてしまいたかった。
別に伊沢くんだからというわけじゃないと思う。友達と街でたまたま会ったときに彼氏を連れていてちょっと気まずいとか、あまり親密じゃない知り合いを夢に見てしまい複雑な意識が芽生えるとか、そんな感じ。
『ちょっと待って』
『準備できたらすぐかけるわ』
伊沢くんからLINEが返ってきた。待つのは構わないけれど、なにかしていることがあるならそれを急いで片付けてまで電話をする必要はない。
『いつでもいいよ』
いや、やっぱり急いで片付けてまで電話をする用があったんだろうか。
夜ご飯の準備をしながらちらちらとスマホを確認していると、ふっと着信中の画面になった。緑色の応答マークの方にスワイプして電話を受ける。
「もしもし」
「ん、今日はひとりなの?」
電話の向こうからは彼の声とともに、ちいさく他の人の声や作業してそうな音が入ってきた。
「え、あー、そうだね。今日は自分の家」
どこで電話しているんだろうか。
「っふーん、そっか。昨日めちゃくちゃ警戒されてたみたいだから気になって」
すぐに本題へと移ると思っていたけれど、彼はのんびりと笑っている。まあ、確かに昨日のことは気になるか。
「それはごめん、ちょっと勘違いさせたっぽくて」
「なんであんな目の敵にされてたの?俺」
わたしは暇だからいいけれど、きっと彼はそうじゃない。本題前の雑談なんて、できるだけ簡潔に済ませてしまおう。
「なんとなく伊沢くんが出てるテレビつけたら、まだ未練タラタラじゃんって言われちゃって」
「え」
彼が1文字発して黙ってしまったので、急に恥ずかしさが舞い戻ってきた。伊沢くんがいないところで伊沢くんのこと思い出してることを、あっけなく本人にバラしてしまった。
いやいや、でも、意味を持った思考じゃない。大丈夫、すこし照れくさいだけだ。
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ウィンターくん(プロフ) - 更新うれしいです!ありがとうございます。ここのとこ2話で話がぐっと進んでますね…! (2021年4月12日 8時) (レス) id: 6c1e210fc5 (このIDを非表示/違反報告)
ぴの。(プロフ) - 初コメントです多分。あまりにも世界観に引き込まれすぎました。ここまで読んで続き!もっと読みたい!早く!ってなりました。読者側がこんなことを言うのも烏滸がましいのですが、文才溢れすぎてもう天才的で他のも読んだことあるのですが全て面白かったです。 (2021年4月10日 21時) (レス) id: 6d66e5d0a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» ウィンターくんさんいつもコメントありがとうございます!これからも頑張りますので、よろしくお願いします(^^) (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ゆゆこさん» ゆゆこさん、コメントありがとうございます。楽しみにして何度も読み直していただけたとのことで、とても嬉しいです( ; ; )これからはもうすこし更新頻度を上げたいと思ってます!これからもどうかふたりを見守っていてください!! (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 更新嬉しいです。ご無理なさらず、でもこっそり続きをお待ちしています。 (2021年4月2日 19時) (レス) id: 0f9ee489eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年8月10日 23時