その変化は進化でなく退化 ページ22
個室の居酒屋で、向かい側に座る彼の指先を目で追う。
「ほんとに持ってきたんだな」
それ、と伊沢くんが指すのはわたしが抱えてきた紙袋。もちろん、彼がわたしの家に置いていったものを詰め込んだものだ。
まとめてドカンと放り込んでしまいたかったけれど、この間渡したバインダーの例がある。もし大切なものが紛れていたら困るから、ひとつひとつ丁寧にしまい込んだ。
「まあね」
「重かったろ」
もう、わたしの元に帰らないそれは、あるべき場所へ戻る輝かしさを持っていたような気がする。
「んー、そうでもない。家から出せてすっきりしたし」
それは空いた収納スペースの話ではない。わたしの家から、わたしの中から、追い出せてしまったことが重要なんだ。
「そんなもん？」
「そんなもんだよ」
彼の笑顔を見て あ、と気付く。わたし、彼とはもう会わないつもりだったのに。あの日に最後の思い出を手にして、そう決意したのに。また、会ってる。
本当に荷物を追い出したいだけなら、郵送だってよかったし、なんなら捨ててしまったって構わないはず。もしなにかあっても、元カノの家に捨てて困るようなものを置いてるほうが悪いし。
最後だ最後だって、これで何回目だろう。
別れる前も、別れた後も、何度だって最後だと唱えてきた。
「よし、渡せたから帰る」
会って、どうするつもりだったのか、自分で自分がわからない。あの日の決意を揺るがすほどの用件なんてありゃあしないのに。
「は？」
彼は、自分勝手に立ち上がるわたしの手首を握った。簡単に振り解けるほどの力で、そっと。それが痛かった。優しさが傷口に染みるのだ。
「時間割いてごめん、もういいよ」
「なにそれ、なんか感じ悪いんじゃないの」
「いいよ、伊沢くんにどう思われたって」
じわり、自分の棘に刺される。そっと顔を上げてみても、伊沢くんは傷ついた顔なんてしていない。苛立っているような口調だけれど、表情は崩れていなかった。
それが、悔しくって堪らない。
「……前から思ってたけどさ、Aはなんで変わってくの」
「会う度、変わってる」
……もちろん、変わっていく自覚はあった。意思の弱さ、思考の柔さ、決意の緩さ。それらが生み出したわかりやすい結論だろう。
別れたくなり、友達として仲良くしたくなり、それでも好きだと思い、また最後にしようと決意して、自分の意思すらコントロールできずに、なにをどうしたかったのだろう。わからないんだ。
「……伊沢くんは変わらないよね」
継ぎ接いでどうにか漏らした声は、確かに震えていた。
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ウィンターくん(プロフ) - 更新うれしいです！ありがとうございます。ここのとこ2話で話がぐっと進んでますね…！ (2021年4月12日 8時) (
レス) id: 6c1e210fc5 (このIDを非表示/違反報告)
ぴの。(プロフ) - 初コメントです多分。あまりにも世界観に引き込まれすぎました。ここまで読んで続き！もっと読みたい！早く！ってなりました。読者側がこんなことを言うのも烏滸がましいのですが、文才溢れすぎてもう天才的で他のも読んだことあるのですが全て面白かったです。 (2021年4月10日 21時) (レス) id: 6d66e5d0a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» ウィンターくんさんいつもコメントありがとうございます！これからも頑張りますので、よろしくお願いします(^^) (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ゆゆこさん» ゆゆこさん、コメントありがとうございます。楽しみにして何度も読み直していただけたとのことで、とても嬉しいです（ ; ; ）これからはもうすこし更新頻度を上げたいと思ってます！これからもどうかふたりを見守っていてください！！ (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 更新嬉しいです。ご無理なさらず、でもこっそり続きをお待ちしています。 (2021年4月2日 19時) (レス) id: 0f9ee489eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぶっく。
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作成日時：2020年8月10日 23時
