意識的な無意識が破られる事実 ページ12
「いや、友達でしょ、わたしたち」
弟の言ってることはおかしい。友達だもんね、わたし達。そう念押しするように、さらにへらりと笑う。
「そうだね、そうだけど、弟くんの認識だって合ってるでしょ」
ぴしゃり。そう表現するのが正しいだろう。正しさを叩きつけられる感覚。伊沢くんじゃなくっても、元東大最強のクイズ王やら人気ウェブメディアQuizKnockのCEOやら立派な肩書きがなくっても、わかる正しさ。
「俺たちは間違いなく、元カノと元カレだよ」
事実を整理すれば当たり前なのに、伊沢くんがそう言った途端、ぐっと胸が苦しくなった。この苦しさは伊沢くんのせいじゃなくて、楽観的で単純すぎるわたしのせいだ。極端に考えることしかできないわたしのせい。
別れた日に彼が友達になろうと言ったから、わたしはそうなろうとし過ぎて、いろいろ気にしないように、って考えすぎた。
元カノと元カレじゃなくて友達なんだ、って。
でも、わたしたちはあの日まで確かに付き合っていたし、あの瞬間だって、わたしは伊沢くんのことが___
「まあ、だからと言って何も変わんないけどね」
……あれ。わたし、いつまで伊沢くんのこと好きだったっけ。
別れを告げたときは確かに好きだった、好きで苦しんでいたから別れを告げた。あっさり別れることができて辛くなるくらい、好きだった。
でもすぐに、友達になろうと言われて、友達として会って、電話して、今日だってこうやって飲みに来て、
「……A?」
わからない。好きじゃなくなった瞬間が思い出せない。あの日はふたりの関係に区切りをつけただけで、好きの気持ちを断ち切れたわけじゃなかった。
「ちょ、A、どうした?大丈夫か?」
A、とあの日までと変わらない呼び方が頭に響いて、心に流れ込んできて、苦しくなる。伊沢くんの声が心配そうに響いていく。
「ねえ、なんで泣いてんの?」
向かいの席にいる彼が身を乗り出して覗き込んでくるから、それを避けるために目を瞑りたくなった。目を瞑ると、留まっていたはずの涙が、頬を伝った。
……もしかして、わたしの中ではまだ終えられていない?
わたし、まだ伊沢くんのこと好きなの?
「……俺のせい?」
好きな気持ちを隠すために友達に徹して、友達として会って気持ちを偽って、ずっと伊沢くんに酷いことをしていたかもしれない。呼び方やらメイクやらを変えただけじゃ心は変わらないのに、見かけを変えて満足していた。
きっと伊沢くんの方は、呼び方なんて変えなくてもずっと前から心は変わっていただろうに。
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ウィンターくん(プロフ) - 更新うれしいです!ありがとうございます。ここのとこ2話で話がぐっと進んでますね…! (2021年4月12日 8時) (レス) id: 6c1e210fc5 (このIDを非表示/違反報告)
ぴの。(プロフ) - 初コメントです多分。あまりにも世界観に引き込まれすぎました。ここまで読んで続き!もっと読みたい!早く!ってなりました。読者側がこんなことを言うのも烏滸がましいのですが、文才溢れすぎてもう天才的で他のも読んだことあるのですが全て面白かったです。 (2021年4月10日 21時) (レス) id: 6d66e5d0a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» ウィンターくんさんいつもコメントありがとうございます!これからも頑張りますので、よろしくお願いします(^^) (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ゆゆこさん» ゆゆこさん、コメントありがとうございます。楽しみにして何度も読み直していただけたとのことで、とても嬉しいです( ; ; )これからはもうすこし更新頻度を上げたいと思ってます!これからもどうかふたりを見守っていてください!! (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 更新嬉しいです。ご無理なさらず、でもこっそり続きをお待ちしています。 (2021年4月2日 19時) (レス) id: 0f9ee489eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年8月10日 23時