煙に噎せて涙が滲む ページ2
キスも済ませてない5年前のことを思い返して笑い合う今日のデートは、嘘偽りなく、本当に楽しかった。この関係を終わりにしたくないと思ってしまいそうなほどに。
「ねえ、拓司」
でも、今日こそは「またね」なんて次をほのめかすことなく、「さようなら」ときっぱり別れるって決めたから。
ゆっくり、確実に、言葉を落としていく。
「わたし、拓司の隣にいる自信なくなっちゃったの」
まっすぐな彼の瞳に刺される。本当は嘘をついたり誤魔化すのが上手いはずなのに、わたしの前ではいつも素直に表情に出してくれていた。だから、わたしも彼の前では素直でいられた。そしてそれをとても誇らしく思ってた。
でもいまの拓司は、何を考えているのかまるでわからない。
「……だから、わ、別れてください」
恐る恐る決定的な言葉を零すと、拓司はわかりやすく顔を歪ませた。わたしは息をのんで身構える。
耐えきれなくて一度視線を落とすと、もう顔を上げられなかった。彼がどんな顔をこちらに向けていても、きっとわたしは苦しくなるから。苦しくなったって、この決意を撤回する気にはなれない、から。
長い長い沈黙の後、彼が息を吸う音が聞こえる。
息を吸ってから声を出すまでの時間はきっとコンマ数秒なのに、ずっしりと重く、長く感じた。沈黙も、声が聞こえるのも、どちらも等しく怖かった。
「……わかった、別れようか」
その末、飛んできた返事は想像よりもずっとあっさりとしていた。
ああ、やっぱり顔を上げられない。
鼻を痛めながら涙に耐えているなんて情けない顔、拓司に見せられない。それに、拓司の顔も見られない。見たくない。清々した顔を見せられたら、それこそ耐えきれない。
拓司にとって、わたしの存在はそこまで大きくなかったのかな。
でも、それでいい。それならこちらも、未練なんて削ぎ落として去ろう。
拓司が悔しがっていようが喜んでいようが、破局は決定的なものになった。そうなれば、いますぐこの場から逃げ出したい。もう、わたしと拓司はただの元カレと元カノなんだ。
目線を上げないまま、財布から適当に何枚かお札を出して席を立った。
「今までありがとう、さようなら」
今までありがとう、拓司。あなたがどう思っていようと、あなたにとっては無駄だったとしても、この5年間はわたしにとってかけがえのないものでした。
大好きな笑顔だって、授けられた知識だって、わたしの生活から拓司を切り離すのはきっと大変だ。
それでもわたしは、さようならを告げることに成功したのだ。
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ウィンターくん(プロフ) - 更新うれしいです！ありがとうございます。ここのとこ2話で話がぐっと進んでますね…！ (2021年4月12日 8時) (
レス) id: 6c1e210fc5 (このIDを非表示/違反報告)
ぴの。(プロフ) - 初コメントです多分。あまりにも世界観に引き込まれすぎました。ここまで読んで続き！もっと読みたい！早く！ってなりました。読者側がこんなことを言うのも烏滸がましいのですが、文才溢れすぎてもう天才的で他のも読んだことあるのですが全て面白かったです。 (2021年4月10日 21時) (レス) id: 6d66e5d0a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» ウィンターくんさんいつもコメントありがとうございます！これからも頑張りますので、よろしくお願いします(^^) (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ゆゆこさん» ゆゆこさん、コメントありがとうございます。楽しみにして何度も読み直していただけたとのことで、とても嬉しいです（ ; ; ）これからはもうすこし更新頻度を上げたいと思ってます！これからもどうかふたりを見守っていてください！！ (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 更新嬉しいです。ご無理なさらず、でもこっそり続きをお待ちしています。 (2021年4月2日 19時) (レス) id: 0f9ee489eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぶっく。
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年8月10日 23時
