恋文に隠された秘密 ページ26
室先生の計らいによって出演する野外イベントは夏休みを目前にした7月末に行われる。
当日まであと僅か1ヶ月。
早く練習を進めなければ間に合わない。
―だがしかし。
小島「あかん、眠いわ」
佐野「俺も昨日遅くまでドラマ見てて…」
正門「あ、それ俺も見てる〜」
焦りを見せるどころか今まで以上にだらけきっている部員達。
A「練習は？」
佐野「んー…大晴くんもリチャくんも誠也くんもいませんし」
正門「せやなあ、皆どこ行ったんやろなあ。」
小島「大晴あれちゃう？バイトちゃう？」
正門「えっ？大晴ってバイトしてたん？」
小島「オトンが店やってるからなあ」
佐野「へ〜…ってそれバイトちゃいますやん。家の手伝いっすやん。」
―あかん。
このままではあかん。
前回の反省が何も生かされてないことに呆れる。
ギリギリで焦ったってどうしようもないのに。
ゆとりを持って計画的に練習すべきなのに。
今回の演目は3曲。
野外でのライブということで、アップテンポの夏らしい曲がチョイスされている。
勿論考えたのは末澤先輩―
ではなく、意外にも正門くんが組んだセットリスト。
A「正門くん、」
正門「ん？」
A「この曲…」
正門「ん？…ああ、俺これめちゃめちゃ好きなんよ〜」
佐野「それ俺知らん曲っすわ！」
正門「スマホに入れてるし聴いてみる？」
佐野「良いっすね！流しましょ！」
正門くんがスマホを取り出したとほぼ同時に部室の扉が開き、末澤先輩が現れた。
小島「あ、誠也くんや」
末澤「何してんの？」
佐野「この曲皆で聴こーってなったとこです」
末澤「ふーん…」
先輩と目が合った。
心を悟られそうな気がした私はすぐに視線を動かす。
数秒後、正門くんのスマホから曲が流れ始めた。
爽快感溢れるメロディと夏をテーマにしたリリック。
明るい雰囲気の裏でさり気なく切なさを醸すギターリフ。
特徴的なラスサビ前の転調によって曲全体についたメリハリ。
佐野「良い曲っすねえ！」
小島「盛り上がりそうやな〜」
正門「ええやろ？俺いっつも聴いてんのよ」
確かに良い曲ではあると思う。
私も別に嫌いじゃない。
―この曲自体は。
末澤「今週から土日も練習な」
佐野「はーい」
渡された楽譜に目を落とし、複雑な心境を押し込むように深呼吸をした。
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作者名：ﾋﾟﾝｷ | 作成日時：2023年1月17日 15時
