ふたりきりの放課後 ページ12
こうして本格的な練習が始まった。
―と言っても相変わらず集まりは悪いまま。
小島「あれ？晶哉は？」
草間「さっき帰った」
福本「家族と飯食うらしいで」
毎日毎日誰かしらは必ず欠席する。
正門「今日こじけんは？」
佐野「補習受けてるらしいっすよ」
放課後だけに留まらず、休日も呼び出された。
佐野「土曜の学校って変な感じっすよね！」
小島「確かにな〜。」
末澤「リチャは？」
佐野「バイトです」
気付けば腹が立つこともなくなっていた。
誰かがいないのが当たり前。
その誰かがいない理由を知らないのも当たり前。
果たしてこれを部活動と呼べるのかどうかはさておき、特に何の用事もない私は必ず出席した。
自分でも不思議で仕方がない。
あれだけ嫌だったはずなのにどうして毎日ここに来てしまうんだろう。
恐らく私が欠席したところで誰も何の文句も言わないだろうし、適当に理由をつければいつだって休めるのに。
―でも、何となく分かっていた。
末澤「お、早いやん」
ある日の放課後、いつも通り部室の扉を開いた私を出迎えたのは末澤先輩だった。
2人きりになるのはあの日の美術室以来で、ほんの少しの緊張を覚える。
末澤「案外楽しいやろ？」
A「…まあ」
末澤「"入って良かった〜"って思ってるやろ？」
A「そこまでは別に」
窓の外から微かに末澤ガールズ達の声が聞こえる。
彼女らも彼女らとて休むことなく毎日校門の前に通い詰めているのを私は知っている。
末澤「偉いやん、毎日来てるし。」
A「部活ってそういうもんやと思ってました」
末澤「そうなん？俺は別にどっちでもええと思ってるけど」
音のない部室は何となく落ち着かなくて、傍にあったピックを手に取った。
末澤「ええ天気やな、今日」
空の青さに目を細める横顔。
胸元のネックレスが反射で光を宿した。
末澤「…ビビった？」
A「え？」
末澤「こいつらめっちゃ楽器できるやん！…って思わんかった？最初。」
A「…思いました」
心の底から楽しそうにキーボードを叩く小島くん、
正門くんにアドバイスを貰いながら練習する福本くん、
得意の早弾きを披露する正門くん、
多大な音域を操るリチャ先輩、
汗を流しながらスティックを握り締める佐野くん。
彼らの実力は本物だ。
そして、日々確実に成長している。
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作者名：ﾋﾟﾝｷ | 作成日時：2023年1月17日 15時
