6匹目 猫 ページ7
風紀委員の朝は早い。
登校したらまずは校舎の見回りをしなければならない。
現在、絶賛見回り中なわけですが。
花壇の影になっているところにさっそく風紀の乱れを発見してしまった。
『こ、これは……』
目の前で眠る小さな影。
白い毛。
ピンと伸びたひげ。
……どう見ても猫だ。
それも小さめの、子猫。
愛くるしい姿にたまらなくなった私は、そーっと近づいて手を伸ばした。
『もふもふ…』
う〜ん、なごむ。
こんな思いができるなら風紀委員会に入って良かったかも……
なんて思ったのも束の間、嫌なことを思い出してしまった。
これを委員長に報告しなければならない。
あの人のことだ、無情に外へ放ってしまうことだろう。
…いや、それだけならまだいい。
肉食動物のようにこの子を食べてしまったり……
……そんなこと、絶対にさせない。
私は覚悟を決めた。
『守るからね…!』
「何してるの?」
一瞬で全身が石になった。
タイミングが悪すぎる。
『なななな、なんでもないですよ』
私はぎこちなく振り向いて愛想笑いをした。
「………」
委員長は真顔でこっちを見ている。
……バレた…?
そのとき、
にゃーん
鳴き声が聞こえたかと思うと、私の横を白い影がてくてく歩いて行った。
『だ、だめ!』
咄嗟に手を伸ばしたまま身体が動かない私を置いて、どんどん離れて行ってしまう。
ああ……あの人が猫ちゃんを視界に入れた。
……守るって約束したのに、ごめんね。
私はぎゅっと目をつぶった。
にゃー
ゴロゴロ
聞こえたのは、想像していた生生しい音とはかけ離れていた。
あっけにとられて目を開くと、
『へ…?』
顔まわりを撫でられて気持ちよさそうにのどを鳴らす猫ちゃんの姿。
膝をつき、少し首を傾けながら撫でる委員長の表情もなんだか穏やかで。
…あんな顔もするんだ。
きゅん
………ん?
『きゅん!!?』
ないない。
鬼畜委員長だよ、正気の沙汰じゃないって。
ないないない。
「うるさいんだけど」
いつの間にか猫ちゃんを抱えていた委員長は、冷ややかな眼差しでこちらを見ていた。
『スミマセン…』
聞いているのかいないのか、一度だけまばたきしてすぐに振り向いて行ってしまう。
そして少しして立ち止まって、
「ミルク買ってきて」
とだけ言ってまた歩き出した。
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作者名:波紋セラーノ | 作成日時:2020年5月25日 14時