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ヤブはふいに目を覚ました。
いつの間にかベッドに寝ている。
泊まっている旅籠の一室だろう、だが部屋まで歩いた記憶がない。
ユウヤが運んでくれたのだろうか。さすがに飲み過ぎた。頭がガンガンする。
身じろぎして、身を起こす。
頭をガリガリと掻いて、ベッドサイドにあったはずの水差しを取ろうとして、ギクリと動きを止める。
水差しの隣には金の林檎―――。
「これ、」
「…ユーリくんが持ってきたんじゃん。覚えてねぇの」
声がする。
顔を上げるとユウヤが窓辺でマグを傾けていた。
苦笑ぎみに笑って続ける。
「いやぁヤブくん珍しく飲んだね。ここまでオレ引きずってきたんだぜ。それも覚えてない?」
「…覚えてねぇ。悪かったな」
いーや。そう言って、ユウヤは楽しそうに笑う。
いつだってユウヤは楽しそうに過ごそうとしている。
その内面に哀しみや怒りを押し殺して。
すぐに喚き散らす自分とは大違い、そんなユウヤと一緒にいることでどれだけ救われてきたか分からない。
ヤブはベッドから降りて、ユウヤに近づいた。
林檎を掴み、そして隣に座りながら窓辺に置いた。
「……おまえこれ、好きに使えよ」
「はぁ? 何言ってんの。それあんたのでしょ。オレなんかの為にユーリがわざわざ持ってこないって」
「何に使おうがオレらの勝手だ。オレはもう必要ない――」
「ヤブくんに一番必要でしょうよ、ヒカルくんを取り戻すこと」
「あいつは自分の意思で本物の姫になったんだ。オレらがこれ以上なにもできることはない……」
「それあんた本気で言ってるなら、生まれて初めて軽蔑するぜ」
睨み付けるユウヤの視線を、ヤブはまともに見られない。
「ユウヤ…おまえはあの日からずっとオレに付いてきてくれた。お前がいなければオレはとっくにどこかで野垂れ死にしてただろう。なのにオレは、唯一のお前の願いを叶えてやることができなかった……」
「父の、仇……」
「すまない。ヒカルに気を取られすぎたオレの判断ミスだ。城に入る前に言われたのにな……。だから
ユウヤがしばらく黙り込み、それから林檎を掴んだ。
マジマジと見つめながら話す口調は、いつもの陽気なものだった。
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SK329(プロフ) - ずみさん» コメントありがとうございますっ!やっぱり男子が良いですよねぇ、ドレス姿になるにはいつも羞恥が欲しいです笑 まだなにも浮かんでませんが、次またファンタジーやったらまたまた雷になりそうな予感があります笑 (2019年12月11日 11時) (レス) id: f6c245c48e (このIDを非表示/違反報告)
ずみ - 完結おめでとうございます!sk329さんのファンタジーは毎回ワクワクさせるもの。雷の設定がだいすきです。やぶひかは男にしてくれてありがとう! (2019年12月10日 1時) (レス) id: 61e430b579 (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - なえさん» コメントありがとうございますっ!dkwk嬉しいですっ物語が破綻しないで良かった(*´∀`*) 続編もよろしくお願いいたしますっ (2019年12月9日 13時) (レス) id: f6c245c48e (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - ひーさん» コメントありがとうございますっ!雷、なんかイメージに合うんですよね!火より雷。単に黄色だから?笑 双子設定も楽しく書けたのでそう言っていただけると嬉しいですっ。続編もよろしくお願いいたしますっ (2019年12月9日 13時) (レス) id: f6c245c48e (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございますっ!父と子…確かに。でも気づけば勝手になんです、多分書きやすいのです笑 王国は明確にモデルいましたが、かごめと今回は単にやな奴ですね汗 そしてパレード、ラストの竜のとこ恐れ多いけれども合う…と思ってしまいました汗 (2019年12月9日 13時) (レス) id: f6c245c48e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SK329 | 作成日時:2019年10月8日 16時