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隣国。
とある酒場の噂話。
「おい、聞いたか。ついにあの国、跡取りが決まったそうじゃねぇか」
「妹のヤオトメ姫だろ。お披露目の挨拶はそりゃあお美しかったそうだ。これで各国の弟王子たちが本格的に色めき立つな。王になれるんだから」
「まだ独身の皇太子たちもだろう。あのお美しいケイ姫がどこへ嫁がれるのか、うちの色ぼけ王も独身なら立候補するだろうな」
「だがなんと言ってもヤオトメ姫だ。城では連日舞踏会が開かれているらしいぞ。うちの弟王子もあの手この手の贈り物攻勢だ。なんとか射止めて欲しいものよ」
「まったくだ。あの国を良いようにできるってことになりゃこちらも商売が広がるってもんだからなぁ」
そして広がる笑い。
その無遠慮な笑い声を聞くともなく聞いている旅人ふたり。
ヤブはガンっと音をたてて大きな木のマグをテーブルに叩きつけた。
隣でユウヤが溜息をつく。
「……ヒカルくんは林檎を使ったんだね、きっと」
竜の攻撃で燃えたと思っていたもうひとつの林檎。
実際は誰かが手に入れていて、それでヒカルは本物のヤオトメ姫になった――きっとなったんだろう。
ダイキの言っていた、すぐに分かるということはきっとそういうことだ……。
「でもほら、王が無理矢理そうしたかも知れないし……」
「ダイキの口調がそうだったか? もしそうならオレらになんとかしてくれとかなんとか言ってくるはずだろうが、自分らのことは忘れてくれなんて――それにあいつ最後……」
さよならと、ヒカルは言った。
自分たちのことは忘れてくれ……キスひとつで冒険はおしまいってか。オレたちのことは若かりし日の思い出で終わらせるつもりだったのかよ!
「分かんねぇ……女になりたくなくてオレたちについて燃やしちまおうとまで考えてたってのに……あいつ」
「まぁ城から出たことない人だからねぇ…やっぱり貧しい旅暮らしは嫌だと思ったのかね……」
「使われたのか使ったのか知らねぇけど、でも形見ってことはそうなんだろ……やっぱ甘ちゃんなんだ、女になりゃ王妃だもんな……バカバカしい……あんな奴にオレは……」
好きだとか。胸が痛い。
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SK329(プロフ) - ずみさん» コメントありがとうございますっ!やっぱり男子が良いですよねぇ、ドレス姿になるにはいつも羞恥が欲しいです笑 まだなにも浮かんでませんが、次またファンタジーやったらまたまた雷になりそうな予感があります笑 (2019年12月11日 11時) (レス) id: f6c245c48e (このIDを非表示/違反報告)
ずみ - 完結おめでとうございます!sk329さんのファンタジーは毎回ワクワクさせるもの。雷の設定がだいすきです。やぶひかは男にしてくれてありがとう! (2019年12月10日 1時) (レス) id: 61e430b579 (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - なえさん» コメントありがとうございますっ!dkwk嬉しいですっ物語が破綻しないで良かった(*´∀`*) 続編もよろしくお願いいたしますっ (2019年12月9日 13時) (レス) id: f6c245c48e (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - ひーさん» コメントありがとうございますっ!雷、なんかイメージに合うんですよね!火より雷。単に黄色だから?笑 双子設定も楽しく書けたのでそう言っていただけると嬉しいですっ。続編もよろしくお願いいたしますっ (2019年12月9日 13時) (レス) id: f6c245c48e (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございますっ!父と子…確かに。でも気づけば勝手になんです、多分書きやすいのです笑 王国は明確にモデルいましたが、かごめと今回は単にやな奴ですね汗 そしてパレード、ラストの竜のとこ恐れ多いけれども合う…と思ってしまいました汗 (2019年12月9日 13時) (レス) id: f6c245c48e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SK329 | 作成日時:2019年10月8日 16時