よそ見厳禁 ページ36
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「考えて、考えて、走れ。お前がしたいと思ったことをしろ。あいつはまだその辺にいるはずだ」
「そ、んなこと言われても、」
どうして、グルッペンを選べない?
どうして、トントンを諦められない?
「……わかんないって」
わかんないよ。でも、でも、
「……後先も迷惑も考えずに突っ込んでくのが、いつもの私じゃんね」
「そうだな、猪女」
「腹立つけど! やっぱり、ここで見ないふりしたら私、トントンに負けたみたいで嫌だから」
「ああ」
「っごめんね、グルッペン! 正直、しょーじき結構嬉しかったよ!」
「……」
私もグルッペンのことが好き。でも、きっとそれって恋とは違うんだ。それは、わかるの。
遠くに見えていたはずのふたりの影が見当たらない。けれど私はグルッペンに言われるまま走りだした。
逃げたら負けだ。負けない、負けるのは大っ嫌い。私はあの幼馴染に言わせてやるんだ、お前が好きだって。これは私が仕掛けた勝負なんだから。よそ見するな、と一発殴ってやらなくっちゃ。
「……もう、忘れるなよ」
走り出して、直後。グルッペンのそんな声を聞いた気がした。私は振り返らなかったから、彼がどんな顔で私の背中を見ていたのか知らなかったんだ。だからその声が少し寂しそうだった、なんて思っても、実際のところはわからなかった。
いい歳して、全力疾走するもんじゃない。鞄を抱いて、走って、転びかけて、そうしてようやく駅の近くであのふたりを見つけた。
「⎯⎯⎯っ、と、んとんッ!」
「え、」
大きな背中。私の声に振り返って瞬く赤いふたつの目。隣に、可愛い女の子。
人目も憚らず私はトントンの背中に飛びついた。勢いに負けて彼が一歩前によろける。
「っな、おま、なにすんねんA……!?」
「ッだれ!」
「え、?」
「〜〜〜っ、そのこ、だれ」
「……は、」
逃がさないとばかりに力いっぱい抱きしめて、間抜けな顔をしているトントンを見上げる。まるまると見開かれた赤瞳が揺れて、また瞬いた。
「だ、誰って、会長の娘さんやけど……」
「なんで、一緒にいるの」
「お前に関係、」
「ある!」
「……」
ない、なんて言わせない。私の、幼馴染がよそ見してるんだもの。そりゃ確かに私に比べたらずっとずっと可愛いけれど、そんなの許さない。
「……よそみ、しないでよ」
あの優しい顔で、私だけを見てよ。
ばかとんとん。
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るな? - 序盤のほうからめっちゃ泣けてました!ドキドキもあるけど感動って作者様神ですか!? (2022年3月5日 2時) (レス) @page50 id: 12ba396496 (このIDを非表示/違反報告)
猫大好き - めっちゃ遅れました。完結、おめでとうございます!!私も、成功するかわかんないけど好きな人に、好きって言う勇気が付きました。ありがとうございます!! (2021年2月3日 19時) (レス) id: 932515d6d7 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - もちたさん» もちたさん、こちらこそ最後までお付き合いいただきましてありがとうございます〜!みんなドキドキしてくれ!の精神で書きなぐっていたのでそう言ってもらえてはちゃめちゃに嬉しいです…!本当にありがとうございました! (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - ネこさん» ネこさん、コメントありがとうございます〜!イッキ見!楽しんでいただけたようでとっても嬉しいです…!最後までありがとうございました! (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
もちた - ちょっと遅れてしまいましたが、完結、おめでとうございます...!こんなにドキドキできた作品は初めてです...本当に...ありがとうございます(た)...! (2021年1月26日 20時) (レス) id: d31df64977 (このIDを非表示/違反報告)
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