愛はそこにないけれど ページ29
.
『…大好きやで。今度こそ、手放さへん。だから、もう一度誓わせてや』
『…っ、うん』
『"一生"幸せにする。また俺と一緒に、生きてくれ。あの頃よりもずっと、ずっと幸せにするから』
『愛してる』
愛、ねえ。
興味なさげなトントンを半ば無理やり映画館へと押し込み、そうして私自身もあまり興味のわかない恋愛映画を見ていた。
巨大なスクリーンの中で涙を落としながらキスをするその男女は幼馴染だった。お互い気持ちをひた隠して、なんでもない幼馴染の顔で傍にいるふたり。
｢……ずび｣
｢……もしかして泣いとる？｣
｢ちがう゛、花粉症｣
｢ああ、そう｣
感動しなかったわけじゃない。現に私の目からはぼろぼろと涙が溢れて止まらないのだから。
誰よりも近くで寄り添っていたはずのふたりの間には目に見えない深い、深い溝があって、それでも確かに胸の奥にあったその愛とやらのお陰でこうして結ばれた。ふたりは心の底から幸せそうだった。同じ幼馴染でも私たちと違うのは、その大事な愛の有無か。
｢彼氏の方、ちょっとトントンに似てたね｣
｢それ、眼鏡しとるってだけやろ。けど彼女の方はAに似とるわ。泣き虫で弱そうなとこが｣
｢うそ、私、女優さんレベルで可愛い？｣
｢顔の話はしてへんぞ｣
｢素直にへこんじゃった｣
愛って、どうしたら作れるんだろう。それがあれば私たちもあのふたりみたいになれるのかな。
｢なんかちょっと、羨ましいな｣
｢羨ましい？｣
｢幼馴染のトントンと恋したい、なんて思ったことなかったけどさ、やっぱり誰よりも傍にいてほしいって思うのは君だから。私も、トントンと本当の恋人になってみたくなった｣
｢……｣
幼馴染を落す。その動機は居心地の良さなんて愛もへったくれもないものだけれど、あんなに嫌な思いばかりで溢れていた恋もやっぱり悪くないなって。
｢トントンは、どう？｣
｢なにが、？｣
｢私と恋、したくなった？｣
走るエンドロールを眺めていた彼の顔を覗き込んで笑う。私はしたくなったよ。君は、どうかな。
淡い茜色の空を映すスクリーンのせいだろうか。目をまんまるに見開いたトントンの顔が赤く染まったように見えてもうひとつ笑う。
｢……なってへんわ、あほ｣
ため息を呑むように片手で顔を覆ったトントンが指の隙間から零した力のない罵倒にちょっとだけ私は有利を悟った。案外その気はあるんじゃ？なんて、ふふ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 934人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
るな？ - 序盤のほうからめっちゃ泣けてました！ドキドキもあるけど感動って作者様神ですか！？ (2022年3月5日 2時) (
レス) @page50 id: 12ba396496 (このIDを非表示/違反報告)
猫大好き - めっちゃ遅れました。完結、おめでとうございます!!私も、成功するかわかんないけど好きな人に、好きって言う勇気が付きました。ありがとうございます!! (2021年2月3日 19時) (レス) id: 932515d6d7 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - もちたさん» もちたさん、こちらこそ最後までお付き合いいただきましてありがとうございます〜！みんなドキドキしてくれ！の精神で書きなぐっていたのでそう言ってもらえてはちゃめちゃに嬉しいです…！本当にありがとうございました！ (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - ネこさん» ネこさん、コメントありがとうございます〜！イッキ見！楽しんでいただけたようでとっても嬉しいです…！最後までありがとうございました！ (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
もちた - ちょっと遅れてしまいましたが、完結、おめでとうございます...!こんなにドキドキできた作品は初めてです...本当に...ありがとうございます(た)...! (2021年1月26日 20時) (レス) id: d31df64977 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
