曖昧な夢のあつさ ページ26
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「⎯⎯⎯ごめんな。俺は、お前を幼馴染以上には思えへん。せやから、あいつに応えてやってくれ」
「幼馴染は、ここで終わりにしようや」
煩わしい蝉の声。頬から滴る汗の熱さ。それ以外の感覚が全て無くなって、その言葉が鼓膜にこびりついて離れない。脳に反響する大好きな声。動かない口。くしゃりと握った制服のスカート。
あれ、頬を滴るこれは、本当に汗だろうか。
「⎯⎯⎯っやだ、やだ……ッ!」
声を荒らげ、勢いよく身体を起こした。そうして視界に拡がったのは、見慣れたトントンの寝室。大好きな匂いでいっぱいな布団が掛けられていて、あれ、と目を瞬かせる。
さっきまで見てた場所と、違う、ような。
ああそっか。夢、か。夢を、見ていたらしい。
「……あ、れ、?でも、どんな夢だっけ、?」
酷く厭な気持ちだけが残って体を重たくさせていた。思い出そうとしても、なんだか暑い夏の日を見ていたような、程度のことしか思い出せない。
「……A、?どうかしたん、」
そんな掠れた声にはっと顔を向けさせた。私が寝ていたベッドの隣、敷布団の中でもぞもぞと動く塊。ひょっこりと掛け布団から頭を頭を覗かせ私を見上げた寝ぼけ眼の赤が私をうつした途端。胸を針で刺されたような鈍い痛みを感じて咄嗟にそれを抑え込んだ。
「と、とんとん、」
「……え、ちょ、なんで泣いとんの」
「な、ないてる、?」
「ええ歳して嫌な夢にでも泣かされたん?」
「……そう、だったかも。覚えてないや」
「なんやねん、それ」
ふふ、なんてちいさな笑い声。少し恥ずかしくなって頬を拭えば、確かに流れる水滴で濡れていた。
おいで、とトントンが掛け布団を捲って仕方なさそうに笑う。するすると腕を引かれるようにベッドから降りて素直に暖かい布団に潜り込めば、より強く感じる大好きな匂いと、彼の腕に抱かれて沈みきっていた気持ちがいくらかふわり、軽くなった。
「まだ起きるには早いから。もうちょい、ねよ」
「……ん」
「起きたら、おまえの好きな卵焼き作ったるから」
「……あまいやつね」
「ふふ、ええよ。おやすみ、A」
やさしい、声。
夢の中で誰かの声を聞いた気がする。それは冷たくって、何かを突き放すような、そんな声だった気がする。トントンじゃない、だってトントンの声はこんなに、やさしい。⎯⎯⎯そう、ちがう。ちがう、よね。
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るな? - 序盤のほうからめっちゃ泣けてました!ドキドキもあるけど感動って作者様神ですか!? (2022年3月5日 2時) (レス) @page50 id: 12ba396496 (このIDを非表示/違反報告)
猫大好き - めっちゃ遅れました。完結、おめでとうございます!!私も、成功するかわかんないけど好きな人に、好きって言う勇気が付きました。ありがとうございます!! (2021年2月3日 19時) (レス) id: 932515d6d7 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - もちたさん» もちたさん、こちらこそ最後までお付き合いいただきましてありがとうございます〜!みんなドキドキしてくれ!の精神で書きなぐっていたのでそう言ってもらえてはちゃめちゃに嬉しいです…!本当にありがとうございました! (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - ネこさん» ネこさん、コメントありがとうございます〜!イッキ見!楽しんでいただけたようでとっても嬉しいです…!最後までありがとうございました! (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
もちた - ちょっと遅れてしまいましたが、完結、おめでとうございます...!こんなにドキドキできた作品は初めてです...本当に...ありがとうございます(た)...! (2021年1月26日 20時) (レス) id: d31df64977 (このIDを非表示/違反報告)
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