やさしい匂い ページ25
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「ただいま」
「お家間違えてはりますよ」
「生還したよ」
「……はあ。お疲れさん」
私が帰ったのは自宅、ではなく、トントンの家。私もうここに住みたい。自宅より会社に近いし、何より文句言いつつもこうやって出迎えてくれるトントンがいるから。
「まあ、来るとは思っとったけど」
「でしょ。無事に帰った私を甘やかして、ママ」
「誰がママやねんはっ倒すぞ」
「っていいながらハグしてくれるトントンやさしいね」
「お前が勝手にしがみついとるだけやんか」
玄関先で棒立ちのトントンにぎゅうっと抱きついて、なんだか久しぶりの匂いに口元がゆるりと糸が抜けたように緩む。好きなんだよね、この、お日様みたいなやさしい匂い。
「随分時間かかったな」
「うん。監査もあるからみんなてんてこまい」
「そりゃ不運なことで。風呂、入るやろ」
「はいる。……けど、もうちょっと、このまま」
「……ええけど、立ったまま寝るなよ」
好きな匂いが安心感を連れてきて、同時にここ最近抱え込みすぎた疲れがどっと押し寄せてくるようだった。
少し身体を引かれて一歩前へと踏み込めば、背後の玄関扉がそっと閉まる。ばたん、とそれが音を立てると、彼の手がゆっくりと子供のようにしがみつく私の背を撫でてくれた。
知ってる。トントンって、本当は結構やさしいの。口は悪いし、すぐ叩くし、けど甘やかしてほしい時にはこうやってやさしさをくれる。突き放すだけじゃないのがこの幼馴染だった。
「……ね、とんとん」
「うん?」
「けっこんしよ…………」
「…………は、?」
草臥れきった口から零れた言葉にトントンの間抜けな声が返る。
「……お、まえ、なぁ……どういう思考回路を辿ってそこに行き着いてん」
「だって、だって、今まで付き合ってきたどの男よりも、やさしいんだもん……口悪くて童貞でむかつくけど、結婚したい男なんばーわんは君以外にありえない……」
誰よりも傍にいてほしい。だって、君の腕の中が一番安心できるから。ずっと、ずっと昔から。大好きな幼馴染、やっぱり理由はそれだけで十分でしょう。
「……眠たいんやろ」
「せいかい」
「あほなこと抜かしとらんと、ほら、はよ風呂いけばかA」
心地がいい君の隣を誰にも渡したくない。ね、だめかな。そう言って顔を上げた先で、笑っちゃうくらいに真っ赤な顔がそっぽを向いていた。照れてる、少しは揺さぶれたかな、君のきもち。
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るな? - 序盤のほうからめっちゃ泣けてました!ドキドキもあるけど感動って作者様神ですか!? (2022年3月5日 2時) (レス) @page50 id: 12ba396496 (このIDを非表示/違反報告)
猫大好き - めっちゃ遅れました。完結、おめでとうございます!!私も、成功するかわかんないけど好きな人に、好きって言う勇気が付きました。ありがとうございます!! (2021年2月3日 19時) (レス) id: 932515d6d7 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - もちたさん» もちたさん、こちらこそ最後までお付き合いいただきましてありがとうございます〜!みんなドキドキしてくれ!の精神で書きなぐっていたのでそう言ってもらえてはちゃめちゃに嬉しいです…!本当にありがとうございました! (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - ネこさん» ネこさん、コメントありがとうございます〜!イッキ見!楽しんでいただけたようでとっても嬉しいです…!最後までありがとうございました! (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
もちた - ちょっと遅れてしまいましたが、完結、おめでとうございます...!こんなにドキドキできた作品は初めてです...本当に...ありがとうございます(た)...! (2021年1月26日 20時) (レス) id: d31df64977 (このIDを非表示/違反報告)
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