【d!】幼馴染と恋する方法【tn】

夜の帳に手招く ページ16

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｢気分は？｣
｢……よさそうに見えますか｣
｢絶好調に最悪そうだな｣


　くつくつと笑うグルッペンを睨む。よたよた、千鳥足で進む帰路はすっかり暗い。とはいえ、定時上がりだったので今はまだ二十一時といったところだが。

　｢忘れえしまえ｣なんて言ったグルッペンは、迷うことなく私を駅前の居酒屋へと押し込んだ。呑んで忘れろということらしい。そうして適度に勧められる酒をちびちび啜りながら、懐かしい学生時代の話に花を咲かせたり、嫌いな上司の悪口を垂れ流したり。……結局、最後にはトントンの話題になってしまったり。


｢ぜんっぜん、わすれられなかった……｣


　頭の中には未だ頑固汚れの如く焼きついていた。あの、知らない笑みが。寂しさが。息苦しさが。


｢何を言ってる。忘れるのはこれからだろ｣
｢うん、？明日も平日、はしごはかんべんだよ……｣
｢ああ、俺もそれは遠慮する｣
｢じゃあどういう、………ぐ、るっぺんさん？｣


　ふらふら、よたよた。そんなに呑んだっけな、と疑問するほど覚束無い私の足を無理やり前へと進ませるのはいつの間にか繋がれていた手。十字路に差し掛かった時、意識せずに右を向かせた身体がぐいっと左へ引っ張られ目を瞬かせる。


｢私のいえ、そっちじゃない｣
｢こっちは俺の家だ｣
｢……うん？｣
｢みなまで言わんと分からんか？｣
｢………まさかまさか連れ込む気？｣
｢他に何がある｣
｢酔ってます？｣
｢お前ほどじゃないが｣


　駄目か。そう言って俯いていた私の顔をグルッペンが覗き込む。目と鼻の先で揺れる金の髪はさらりと夜風に靡き、瞬いた灰青色の瞳は淡い星彩を滲ませる。

　どちらともなく、自然と足が止まった。


｢……｣
｢……黙りこくられると、流石に気恥しいんだが｣
｢……かっ、｣
｢か？｣
｢……か、っ、かおがいい゛！｣
｢い゛ッ！？｣


　 べちん！ 乾いた音が夜を揺らす。何故か私は両手のひらで思いきりグルッペンの頬を挟み込み、そうしてぐにぐにと抓ってやった。酔っ払いとは唐突に何かをしでかすもんだ。


｢お、まっ、なに、何すんねんコラ…！｣
｢わたしはかえる〜っ！かえる、の！｣
｢わかっ、分かった、分かった！｣


　顔面偏差値の暴力反対！などと叫んで、今度は私が彼を右へと引き摺ってゆく。

　……あぶない。危うく着いてくとこだった。どきどき、変な動悸に目を瞑る。私の標的はトントンなのだから余所見など厳禁だろう。

　私はまだ、負けちゃいない。


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