【d!】 Lost 【tn】

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　はて、自分はこんなにも他人に絆されやすい性格だっただろうか。



　今夜も寝静まった薄暗いリビングで布団に潜り物思いに耽ける。

　どうにも自分がおかしい気がする。幾ら彼女が心優しい人間だからといって、こんな短期間で気を弛めてしまうとは。何なら疲れて帰ってくるであろう彼女の為にあれやこれやと手を尽くした。確かに恩を返さねば、という気持ちはあるけれど、それをする自分はとても必死だったのだ。


　俺は一刻も早く戻って、積み重ねられているであろう仕事を片付けたい。あいつらだって、心配するだろう。大丈夫なんだろうか。今頃、俺を探し回ってくれているんだろうか。俺の仕事はエーミールやオスマン辺りが代わってくれているだろうからまぁ、そこは心配していないが。


　帰るためなら何でも利用しようと思っていた。彼女の善意に漬け込んで、帰れればそれっきり会うことも無いのだろうし。最低限の愛想を見せていれば幼馴染と似ている、というだけで彼女は俺に手を貸してくれることだろう。

　そう、思っていたのだが。




「……はぁ。」


　ため息も吐きたくなる。
　俺は完全に彼女に絆されていた。おかしいのだ、俺が。優しすぎる彼女は別に悪くない。


　女という生き物が兎に角嫌いだった。苦手、所ではない。仕事が関わらない限りは避けて生きてきた。だからこの家に来た時、本当は心底最悪だと思ったのだ。

　しかし、何故だろうか。彼女に対する嫌悪が何一つ自分の中に無いのだ。それどころか彼女の帰宅を待ちわびていたり、気紛れな戯れの言葉に一瞬心臓を揺らしたり。ついさっき彼女が自分を励ましたのだと気づいた時、胸の内が軽くなったのを感じたのは本当に驚いた。


　彼女が優しい人間だから、なんて理由だけで片付けられる話ではない。すんなりと彼女の存在を受け入れている自分がおかしい。勿論、利用できる物として、では無いのだろう。

　明日を楽しみにしている自分も、やはりおかしい。


　彼女がいると、知らない自分が顔を出すようだ。彼女は自分の元に俺が来たのも何かの縁かもしれない、なんて言っていたが、確かにそうかも、なんて思い始めている。

　これは、帰るためのヒントになり得るんだろうか。だとしたら、彼女をもっと、知るべきか。



「……A、」



　何で、俺はあんたのところに来てもうたんやろか。




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