スパダリとツンケン ページ23
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「あ。おはよ、A」
聞いて下さい、私は泣きそうです。
いつも通りの時間に起床し、多分起きているであろうトンくんへ朝の挨拶をしに行けば、小さく微笑んでフライパンを握る彼の姿があるではないですか。朝一でそんなトンくんを発見してしまった私の心には、ぴしゃん、と雷が落ちたようでした。
「お、おはよ。もしかして朝ごはん作ってくれてる?」
「その、俺、何も返せるもんはないんやけど、あんたの為に出来ることって言ったらこれくらいかなって。簡単なもんしか作れへんけど、これならもう少し朝はゆっくり出来るやろ?……迷惑か?」
「っめ、迷惑なんて思ってない!ちょっと、嬉しくてというか、びっくりしたというか、」
「……ふふ、そか。はよ支度してきや。もーちょい掛かるから」
「泣きそう」
「えっ」
「本当にありがとう、支度してくる!」
「お、おん」
ああ、成程。スパダリって言葉は彼に使うものでしたか。何この新婚さんみたいな空気、朝からいい物を見れた。
昨日も言った通り、見返りが欲しい訳じゃないから気を遣わなくったっていいのに。……でも、ちょっと嬉しい。いや、ちょっと所ではない。洗面所にたどり着き鏡を見れば、それはそれは緩みきった表情を浮かべた自分がいる。
ぺちん、と化粧水ごと頬を叩く。浮かれるんじゃない、私。
超特急で支度を終えてリビングへと戻れば、既に完成された朝食がテーブルに並んでおり、トンくんはソファーに座って小説を読んでいる。
そういえば、昨日買った下巻を渡すのを忘れていた。一旦自室に戻り、鞄を漁ってから再び彼の元へと向かう。
「トンくん。これ、昨日の朝読んでた小説の下巻」
「っえ、わざわざ買ってきてくれたん?」
「私もそのうち読むからついでだよ」
「ほんまに?ありがと、続き気になっててん」
はい、と手渡せば嬉しそうにはにかんで小説を受け取ってくれる。朝から素敵な笑顔が見れて幸せである。
昨晩、一応自分でお昼ご飯作れるように、と家電の使い方を簡単に教えていたので目玉焼きにトースト、珈琲、と完璧な朝食だ。
「いただきます」と手を合わせれば、続いてトンくんも手を合わせる。
トンくんがうちに来て二回目の朝。
私は緩む頬を隠すのに忙しくなっていた。
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ぽっぷこーん(プロフ) - CSSのON/OFF出来るようにしてくれると嬉しいです。デフォに慣れてるとあまり落ち着かなくて……無理でしたらすみませんが、ご検討よろしくお願いします。めちゃくちゃ面白くて好きです。見てる途中です (2021年11月4日 17時) (レス) id: 23b3a74ded (このIDを非表示/違反報告)
都 はなれ(プロフ) - はじめまして、ひぷさんの他作品から来たものです。CSSが切れないので設定の方変えていただくことは可能ですか?都合のお願いで申し訳ありませんがよろしくお願いします。 (2021年2月6日 22時) (レス) id: 70f991d98e (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 倉の中の石さん» 倉の中の石さん、初めまして!そう言っていただけるととっても励みになります。ゆっくり更新になってしまいますが、是非この先も楽しんでいただけたら幸いです。 (2019年11月21日 18時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
倉の中の石(プロフ) - めっさ面白いです!夢主ちゃんがヒロインヒロインしてなくて非常に好感が持てますね!更新頑張って下さい。応援してます! (2019年11月20日 2時) (レス) id: b9ac23ea5c (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 零さん» 零さん、初めまして!お目通しいただきありがとうございます。上手く違いを出せているのかとても心配だったのでドキドキしていただけてとっても嬉しいです!これからもどうぞ、当作品を宜しくお願いいたします。 (2019年11月10日 23時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
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