【d!】 Lost 【tn】

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「胃もたれしそうやな、それ」

「よゆーでしょ」


　訪れたのは最近駅前に出来たカフェ。巷で流行りのふわっふわパンケーキが女性たちに大人気だそうで、到着したのが少し早かったからかギリギリ待たずして入店出来た。今はもう店の外には列が出来てしまっている。

　私が頼んだのはこの店の人気ナンバーワンらしい生クリームといちごが沢山乗っかった甘いパンケーキ。甘党としてはこれ以上ない至福である。
　逆にトントンが頼んだのはチーズが練り込まれた甘さ控えめのもの。あれも美味しそうだ、等価交換で一口貰うことにしよう。


「ほら、一口あげる」

「……い、いや、ええよ」

「ほれ」

「っんむ、」


　そう言うと思ったので、フォークに刺した自分の甘いパンケーキを勝手にトントンの口の中へ放り込んだ。してやったり顔で笑って見せれば、顔を赤くしたトントンが口をもごもごさせながら睨んでくるが、そんな可愛い顔されちゃ全く怖さなんてない。


「……あま、」

「好きでしょ？」

「そりゃ、嫌いではないけど」

「じゃ、トンくんのも頂戴」

「……言うと思ったわ」


　「あ、」と口を開けて催促すれば、呆れた表情を浮かべたトントンが渋々その口にパンケーキを運んでくれる。確かに甘くないけど、塩気があってこっちも美味しい。


「なんか、その呼び方懐かしいなぁ」

「え？……あ、無意識だった」


　さっきまでずっとトンくんの事を考えていたからか、つい間違えてしまった。いや、まあ昔はそう呼んでいたから間違いでも無いのだけど。


「ふふ、ちっさかった頃のこと思い出すわ。昔は可愛かってんけどなぁ……どこで間違ったんやろ」

「ちょ、今は可愛くないってこと？」

「いや、口閉じてれば可愛ええけど」

「………え、可愛いっていった？」

「…………幻聴やない？ほら、はよ食べや。昼休憩終わってまうで」


　いや、そんな訳あるか。確かに今私のこと可愛いって、………不意打ちにも程がある。

　普段はトントンのことからかって面白がってるけど、逆の立場になると駄目だ。急に恥ずかしくなってきてしまって、誤魔化すように珈琲を飲み干した。



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