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追憶/ ページ41

インターホンが鳴ってすぐにけたたましく玄関の扉を叩く音が耳に残ってる。

怖いと思ったが扉の向こうからは松田くんの声がして、恐る恐る扉を開けたんだ。


息が上がっていて、汗を拭いサングラスを外す松田くんの姿がやけに印象的だった。


『…Aさん、落ち着いて聞けよ』


嫌に低い松田くんの声。何が何だかわからずとりあえず頷いた…気がする。

彼の前置きがあってもなくても次に来る言葉を聞いて落ち着けるわけがなかったから。前後のことなど曖昧だ。


『萩原が……爆発に巻き込まれて死んだ』


そうして、私の中で一瞬、時間が止まった。心臓も、思考も、一緒に。

何を言われたのか理解できなかったのに、なぜかすぐに心臓は早鐘を打ち始めた。


『あいつ……死んじまったよ』


ぐしゃりと己の前髪を乱した松田くんと目が合った。



何の変哲もない、いつも通りの朝だったはず。あ、でも確か夜は松田と飲んでくると言っていた。

行ってきます愛してるよ、なんていつも通りふざけたセリフに、笑って、私は何て返したっけ。

玄関の扉が閉まり切るまで、にこにこと手を振っていた姿が、私の見た最後の研二だった。



『…通夜は、明後日だ』


静かな声。取り出して咥えた煙草に火をつける松田くんは、もう、研二の死を受け入れているのか。


私はゆっくりと振り返った。

灰皿の中の吸い殻、部屋着、歯ブラシ、髭剃り、すぐ足元には靴だってある。


『今すぐは無理だろうが……受け入れろ』


この部屋には研二が生きていた証が溢れているのに。


受け入れられるわけなかった。


嘘だ。最低だ。何でそんな最低な嘘を吐くの。

そう言って松田くんの襟を掴んで、力一杯叩いて、叩いて、罵って、泣き叫びたくて仕方なかった。


『…ぜってぇ犯人は捕まえる』


けれど吸い始めたばかりの長い煙草を噛み潰した松田くんの低く唸るような声に、頭の片隅の冷静な自分が引きずり出された。


そんなことをしても無駄だ。松田くんが悪いんじゃない。落ち着いて。冷静になれ。


『松田くん』


今すぐ、なりふり構わず声を上げて、松田くんの迷惑も考えず気が済むまで泣き叫べたら、どれほど楽だっただろう。


『一人に、してもらってもいい…?』


夜になったらただいまって帰ってくるんじゃないか。朝起きたらすぐ隣に間抜けな寝顔があるんじゃないか。


どこかでまだ、そんな期待を捨てられずにいた。

追憶//→←important:20



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理那(プロフ) - ありがとうございました。本当に素敵なお話でした。 (2020年7月7日 16時) (レス) id: db0db57d74 (このIDを非表示/違反報告)
かものはし子(プロフ) - お萩さん» コメントありがとうございます(*^^*)頑張っていきます! (2019年5月17日 22時) (レス) id: e4c7a737a2 (このIDを非表示/違反報告)
お萩 - わー!とっても素敵ですね!ふるやさんこわーい「棒」 これからも頑張ってください (2019年5月17日 20時) (レス) id: c0a94bdd1a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:かものはし子 | 作成日時:2019年5月16日 3時

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