【名探偵コナン】溶けていく、【降谷零/萩原研二】

泡沫 ページ15

覚えのある懐かしい部屋。


少し暗い。


扉を叩く音。


心臓がどくりと脈打つ。



『落ち着いて聞けよ』



嫌だ。聞きたくない。


思い出したくない。


やめて。やめて。言わないで。


もう二度と聞きたくない。



『あいつ、死んじまったよ』



やめてってば。


どうして。


聞きたくないのに。



『通夜は明後日だ』



これは夢だ。


現実じゃない。



『今すぐは無理だろうが受け入れろ』



わからない。わからない。


真っ白。真っ暗。


頭が重い。


早く目覚めて。


悪夢を止めて。



『ぜってぇ犯人は捕まえる』



目の前のまだ長いタバコが苦々しく噛み潰される。


匂いはしない。


どうして。


どうしてまた。


もうわかってるのに。



あの日たしかにまだ残っていた。


匂いも。


声も。


会話も。


ぬくもりも。


たくさんの表情も。


思い出も。


積み重なったあなたとの記憶全部全部。


あの部屋に。私の中に。


たしかに残っていたのに。



・

・

・



ゆったりとした浮遊感に襲われすぐに重たい瞼が持ち上がった。

頬が濡れている。


「…あれ」


触れて初めて自分が泣いてることに気づいた。


なんだろう。


ひどく懐かしい夢をみた気がするのに思い出せない。

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