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...
その日は、たくさん雨が降っていた。
頭上からぱたぱたと、雨と傘がぶつかり合う音が聞こえてくる。
傘からはみ出たスクールバッグは少し濡れていて、普段の紺色が黒くなっていた。
中に入っている教科書を心配しながらも、足早に家に向かう。
靴越しでも雨水が染みて、ハイソックスのつま先が水に侵される。
早く帰りたい。
そう思っていた矢先、目の前に広がるのは大きな水溜まり。
それのせいで、通れる地面なんてない。
「...はあ」
ため息を一つついて、仕方なく踵を返す。
遠回りになるが、普段は通らない道に入った。
見慣れない景色を横目で流し、真っ直ぐ家に向かう。
小さな公園を通り過ぎようとしたとき、ふと目に入った人影。
公園内のぼろぼろのベンチに、傘もささずに俯いて座っている。
男性だろうか。
この日は、普段は動かない良心がなぜか働いた。
その人に駆け寄って一言。
「大丈夫ですか」
しばらくして、ゆっくり頭が上がった。
その人は視線を泳がせ、やっと私の存在を確認したようだ。
「すみません」
そしていきなりの謝罪。
「寝ちゃってたみたいで」
気優しそうな顔でふにゃっと笑った。
お節介かもしれない、と思いはしたものの、やはりこの人を放っておくわけにもいかなかった。
私は常に持ち歩いている折り畳み傘を鞄から取りだし、その人に差し出した。
「これ、よかったら使ってください」
その人は一瞬驚いた顔をしたが、素直に受け取ってくれた。
「ありがとう、ございます」
その人はぎこちなくお礼を言い、嬉しそうに傘を見つめた。
その動作の意味はよく分からなかったが、喜んでくれたことは嬉しかった。
私はペコッと少しだけ頭を下げ、その場を後にした。
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雪 - おーーなんかすごいです (2016年8月25日 17時) (
レス) id: d885b7a670 (このIDを非表示/違反報告)
天宮叶(プロフ) - 読んでいくうちにとても引き込まれましました。全体的に透明感があって思わずうるっとしてしまいました。 (2016年2月27日 16時) (レス) id: ba642bc330 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：被苦人 | 作成日時：2015年7月20日 19時
