第56話 たったひとつの ページ6
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「豪炎寺ぃ。お前もいっぱい食えよな!」
「ああ」
ありえない量の白米を詰め込んだお茶碗。その傍らにはたくさんのトーストと目玉焼き。
そして、ヘビー級の揚げ物とお気持ち程度の少しの野菜。
その真ん中で至福の笑みを浮かべる円堂。何なんだお前の食欲は。
見ているだけで胸焼けしそうだ。
部屋の一番端の席に座る。
クロワッサンとフルーツとコーヒー。これだけで俺は十分だ。
ふとそのとき、横からふわっと暖かい風が吹いたような錯覚を覚えた。
無意識に振り向く。
「おはよ」
そう言って笑うAに、少しの間見惚れた。
「見て、こないだ買ったの」
Aがワンピースの裾を持って、くるりと回った。襟のついた真っ白なワンピース。ひまわり色のサンダルが陽の光でキラリと光る。
「可愛い。似合ってる」
するとAは、照れたように笑って、『ありがとう』と頬を染めた。
キスしたい。
朝からそんなことを思ってしまう俺は、最高にイカれている。
それもこれも全部、Aのせい。Aが悪いんだ。可愛すぎるから。
「豪炎寺くん、朝ごはんそれだけでいいの?」
「ああ」
訝しげな表情でサラダを口に運ぶA。その仕草すら、俺を魅了する。
が、ひとつだけ思うことがあるんだ。
A。
たったひとつだけ、不満とまでは言えないが、思うことがな。
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作者名:pomme | 作成日時:2021年3月22日 10時