第53話 一部始終筒抜け ページ3
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「秋、今の全部忘れて…お願い」
秋に懇願する。だけど秋は楽しそうに笑ってて、スマホに向かって『忘れるわけないでしょ〜、ね〜、豪炎寺く〜ん』って言ってる。
……ん?え?
ちょっと待って。
スマホ……?
「秋……?」
ギロリと睨む。
すると秋は『実はスピーカーにしてて…』とヘラヘラしながら、ちょっとだけ申し訳なさそうに私を見た。
「秋ぃ…」
うわぁと項垂れたちょうどそのとき、背後から誰かが近づいてくる気配を感じた。
あっ、と思って顔を上げると、意味深な表情で口角を上げる豪炎寺くんと目が合った。
「あの…豪炎寺くん…」
なんて言っていいかわかんなくて、あわあわする。秋に目配せするけど助けてくれるはずもなく、『ごゆっくり〜』とだけ言って、逃げてしまった。
ちょっと秋、なんて事してくれてんのよ。
聞かれると思ってないもん。
聞かれちゃまずいわけじゃないけど。けどね、恥ずかしすぎる。わかるでしょ。
「A」
豪炎寺くんが私の名前を呼んで、手を引く。反射的にふわっと立ち上がった。
そしてそのまま、豪炎寺くんはぎゅーっと私を抱きしめた。
少し離れたところにいるみんながざわざわしてる。冷やかす声も聞こえる気がする。
「あの、豪炎寺くん、みんな見てるから」
そう言うのに、抱きしめたまま『いいんだ』とか言うから困る。
仕方ないからその背中に手を回した。
するとまた、冷やかしの声が大きくなった。
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作者名:pomme | 作成日時:2021年3月22日 10時