第88話 かくしごと ページ39
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咄嗟にその手を払った。
その瞬間、とても失礼なことをしてしまったと気づいた。
俯きながら、『ごめん…なさい』と届かないほど小さな声で謝った。
ふと訪れる気まずい空気を感じさせないようにしているのか、黒尾さんはことさら明るく振る舞う。
「いや、俺こそごめん。勝手に触るのは良くなかった」
そして、一呼吸置いたあと、『それで…』と仕切り直した。
「そんな顔して、何もないってことはないだろ?」
下ろした前髪の隙間から、切れ長の目が私を真っ直ぐに捉える。
ドキンと心臓が跳ねた。
うざったそうに髪の毛をかき上げる、なんてことない仕草すら、彼の魅力に拍車をかけているようだった。
こんなときなのに、私の目線は黒尾さんの揺れる髪の毛を追い、彼の腕に浮かび上がる筋肉を追った。
黙っていると、黒尾さんは『はぁ』と、肩をすくめた。
「影山と、何かあったんだろ?」
肩がピクリと動く。
それを見逃すまいと、黒尾さんは畳み掛ける。
「Aちゃん見てたら、それくらいわかる」
「……どうして…ですか」
やっと発した声はとてもじゃないけど綺麗とは言えない。
喉がひりつくほど掠れていた。
「どうしてって、キミが好きだからに決まってんだろ」
いつにも増して、大人っぽい雰囲気。
そんな彼の、らしくない、キッパリとした口調。
“キミが好き”
嘘みたいにストレートなセリフが、脳内をガンガン揺さぶる。
やめて、そんなこと言わないで。
リミッターが振り切れて狂った心臓が、激しく脈打った。
涙がじわりと滲む。
「で、でも……私…」
「ねぇ、Aちゃん。そんなに無理してまで、影山にこだわる必要、俺は無いと思う」
「無理してなんか……」
「じゃあ何でそんなに目腫らしてんの?声も掠れてるじゃん。…泣いたんだろ、ひとりで。そんなになるまで。……Aちゃん、俺……、俺は、キミを泣かせたりしない。ずっと笑顔にしてみせる。……キミが好きなんだ。だから、側にいてくれないか?」
刹那、全身が温かいものに包まれた。
鼻腔をくすぐる彼の匂い。
その手を解いて、逃げるようにその場を去った。
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pomme(プロフ) - riさん» ありがとうございます〜!!🫶🏻 (2022年5月21日 16時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
ri(プロフ) - 最高でした〜〜🥲💗💗💗 (2022年5月21日 10時) (レス) @page50 id: d86ac26d68 (このIDを非表示/違反報告)
pomme(プロフ) - 黒猫。さん» いつもありがとうございます!!!黒猫さんの熱超ヤバいし、嬉しすぎるし、ありがたいしで狂っちゃう!もうほんと、マジありがとうございます🫶🏻🫶🏻頑張ります〜! (2022年5月6日 20時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
黒猫。(プロフ) - うわああああ!!…わあ。語彙力吹っ飛びました!!もう!好き!コメ欄が黒猫ばっかになってすみません本当に!愛が溢れてまう…!!とりあえず主様を神と崇めさせていただいてよろしいでしょうか!!かっ…げやまぁ!!完結まで応援しますわ…影山との恋の行方を見届けます! (2022年5月5日 20時) (レス) @page42 id: abf8c53ec1 (このIDを非表示/違反報告)
pomme(プロフ) - 黒猫。さん» ありがとうございます!!!嬉しすぎて、もう泣いちゃう!!素敵なありがたすぎるお言葉、何度も読み返してニンマリしてます……🫶🏻いい夢見れそう… (2022年4月11日 23時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pomme | 作成日時:2022年1月20日 23時