第77話 ひとりがち ページ28
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あっぶない。
ヤバかったよね、今。
ちゃんと誤魔化せてた?ねぇ、どう?私わかんない。
幸い、影山くんに何かあったのかと問いただされることはなかった。
ホッと胸を撫で下ろしたそのとき、向こうから、“あの人”が私たち目がけて一直線に歩いてきた。
「よっ、二人とも。元気にやってる?」
能天気な声色で、片手をひょいと上げる彼。
「何すか。そっちの試合、もう終わったんすか?」
超警戒態勢で、ガン飛ばす影山くん。
それを横目に、頬を伝う嫌な汗を拭った。
何で今来るの。タイミング考えて…?
この人のことだから、絶対何かある。
今までだって、ふらりとやって来て、とんでも爆弾落として帰ってった。
GPSでも付けてんのかってくらい、正確で、そして、その場には私たち以外誰もいない状況で。
あまりに都合が良い。
それは、あくまでも、“彼”……黒尾さんにとってだけのもの。
神様はイジワルだから、私たちの事情は一切、加味してくれない。
本当に、ダメ。今すぐ帰って。
変なこと言わないで。
精一杯の願いを込めて、目を向ける。
「俺のことはどうだっていいんだよ。それよりさ、Aちゃん…」
黒尾さんは私の名前を呼び、挑戦的な目を影山くんに向けて、また視線を戻した。
「さっきはありがとね。俺も楽しかった」
一瞬、静寂がふっと辺りを包んだ。
どこかでちゃんとわかってた。
願いなんか関係なくって、ただ好きなようにかき乱して楽しむのが、この人の性。
半分放心した私に、黒尾さんは優しくて、どこか企みを含んだ笑みを向けた。
そして、何も言わずに背を向けた。
や、待って。
置いてかないで。
さっきとは正反対の気持ちが込み上げてくる。
懇願するように、その背中を見つめても、何も生まれない。
何て言おう。
どうすれば、君を傷つけないで済むだろう。
謝ったら君は、またいつもみたいに頭撫でてくれる?
心臓がすごく痛い。
でもきっと、影山くんはもっと苦しくて痛いんだ。
自己嫌悪と後悔。不安、焦燥。
いろんなものが押し寄せて、目の奥がカッと熱くなった。
「A」
影山くんが、私の名前を呼ぶ。
その声がらしくないほど揺らいでいて、胸が張り裂けそうになった。
それから、影山くんは何も言わないまま、私の頭をくしゃりと撫でた。
一瞬だけかち合った君の目は、ひどく寂しそうだった。
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pomme(プロフ) - riさん» ありがとうございます〜!!🫶🏻 (2022年5月21日 16時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
ri(プロフ) - 最高でした〜〜🥲💗💗💗 (2022年5月21日 10時) (レス) @page50 id: d86ac26d68 (このIDを非表示/違反報告)
pomme(プロフ) - 黒猫。さん» いつもありがとうございます!!!黒猫さんの熱超ヤバいし、嬉しすぎるし、ありがたいしで狂っちゃう!もうほんと、マジありがとうございます🫶🏻🫶🏻頑張ります〜! (2022年5月6日 20時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
黒猫。(プロフ) - うわああああ!!…わあ。語彙力吹っ飛びました!!もう!好き!コメ欄が黒猫ばっかになってすみません本当に!愛が溢れてまう…!!とりあえず主様を神と崇めさせていただいてよろしいでしょうか!!かっ…げやまぁ!!完結まで応援しますわ…影山との恋の行方を見届けます! (2022年5月5日 20時) (レス) @page42 id: abf8c53ec1 (このIDを非表示/違反報告)
pomme(プロフ) - 黒猫。さん» ありがとうございます!!!嬉しすぎて、もう泣いちゃう!!素敵なありがたすぎるお言葉、何度も読み返してニンマリしてます……🫶🏻いい夢見れそう… (2022年4月11日 23時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pomme | 作成日時:2022年1月20日 23時