第74話 狡猾なひと ページ25
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こういうとき、どんな顔してるのが正解?
答えが返ってこないことが明白なのに、訊かずにはいられない。
マジメ腐った顔も、小慣れた顔もできない私は、ただ呆然と、目の前の彼を見つめていた。
嘘だ。
そんなわけない。
だって、あの黒尾さんだよ。
よりによって、私なんか。相手にされるのだって、恐れ多いくらいなのに。
絶対、何かの間違えだ。
そう、頭の中で唱えても、彼の瞳の奥から疑わしいものを探り当てることはできそうもなかった。
いやに高鳴る鼓動が、この空気に対する緊張だけのせいじゃないことは、それだけでもう十分にわかった。
大切な人がいながら、この状況に、彼の言動にドキドキしている。
言い表せない背徳感で、胃のあたりに鋭い痛みが走った。
この先の展開をうまく想像できるほどの経験値が、私にはない。
だから、自然と体育館の方……、影山くんのいる方に視線を走らせてしまう。
「そんなに影山のことが気になんの?」
黒尾さんが、眉を下げながら首を傾げる。
どうしていいのかわからなくて、俯いたまま黙った。
張り詰める沈黙の中、黒尾さんは私の手を離し、そしてもう一度、今度は控えめに握った。
タオル越しとは違い、確かな温度が肌を伝う。
そんな些細な変化にさえ、敏感に反応してしまう自分がとても恥ずかしくて、情けなかった。
今も微かな笑みを浮かべてる彼は、きっと私の気持ち全部を見透かしてる。
「烏野はこの合宿で、それぞれが新しい何かを習得しようとしてる。てことは、烏野にとって今はかなり重要なとき……Aちゃんもそう思うだろ」
「それは……はい。思い、ます」
「烏野にとってそうなら、影山にとってもそうだよな?」
そのとき、黒尾さんがグッと手に力を入れた。
黒尾さんの言う、その理屈、たぶん間違ってない。
前回の遠征、その後の自主練、そして今。一連の流れの中で影山くんは大きく成長しようとしている。
滞りなく、着実に積まれていくそのステップを崩すなんて、もっての外だ。
そんなの私だってよくわかってる。
伊達にマネージャー業やってないし。影山くんの彼女だし。
黒尾さんのことだ。
私の気持ちもよーくわかってんだろう。
さっきの黒尾さんの言葉で少し揺れたことも、私を包む空気が少し不安を帯びたことも。
「だからさ、Aちゃん……。影山やめて、俺にしない?」
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pomme(プロフ) - riさん» ありがとうございます〜!!🫶🏻 (2022年5月21日 16時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
ri(プロフ) - 最高でした〜〜🥲💗💗💗 (2022年5月21日 10時) (レス) @page50 id: d86ac26d68 (このIDを非表示/違反報告)
pomme(プロフ) - 黒猫。さん» いつもありがとうございます!!!黒猫さんの熱超ヤバいし、嬉しすぎるし、ありがたいしで狂っちゃう!もうほんと、マジありがとうございます🫶🏻🫶🏻頑張ります〜! (2022年5月6日 20時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
黒猫。(プロフ) - うわああああ!!…わあ。語彙力吹っ飛びました!!もう!好き!コメ欄が黒猫ばっかになってすみません本当に!愛が溢れてまう…!!とりあえず主様を神と崇めさせていただいてよろしいでしょうか!!かっ…げやまぁ!!完結まで応援しますわ…影山との恋の行方を見届けます! (2022年5月5日 20時) (レス) @page42 id: abf8c53ec1 (このIDを非表示/違反報告)
pomme(プロフ) - 黒猫。さん» ありがとうございます!!!嬉しすぎて、もう泣いちゃう!!素敵なありがたすぎるお言葉、何度も読み返してニンマリしてます……🫶🏻いい夢見れそう… (2022年4月11日 23時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pomme | 作成日時:2022年1月20日 23時