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渡辺side
今日は、朝以来Aセンパイに会うことはなくて。
部活のときにも、宣言通り現れなかった。
放課後にあった練習試合では久しぶりに点を入れたのに。
センパイに見てもらわなきゃ意味ないだろ。
なんて軽く不貞腐れてみたり。
だけど、１つだけ変わったことがあった。
??「渡辺、翔太くん？」
渡「何すか？」
試合前に突然関西訛りの声で呼ばれて、反射的に振り返った。
俺より背が高いし年上だろうな。
??「あのな、Aちゃんと仲ええん？」
渡「Aセンパイっすか？ まぁよく話してますけど」
答えをぼやかしておくと、相手はすぐさま俺に背を向けようとした。
……いやいや、急にAセンパイの名前を出しておいて、帰らせる訳にはいかねーじゃん。
渡「Aセンパイがどうかしたんすか？」
??「いや、今Aちゃん呼んでこいって先生に頼まれてん。仲ええ子なら、どこおるか知っとるかなーって」
「時間とってごめんなー？」と言いながら謎の人は気まずそうに去っていった。
あの人のこと、後でセンパイに聞こう。
そう思って珍しく自主練もしたけど。
結局辺りが暗くなってもセンパイは俺のもとへ来てくれなかった。
渡「うー、センパーイ……」
完全にセンパイ不足だな。
明日いっぱい補充しておこう。
その時だった。
??「じゃあな、Aちゃん！ 気ぃつけて帰りや〜」
「康二こそ、気をつけて」
夜道からセンパイとあの謎の人の声が響いてきた。
俺の聞き間違いであってほしかったけど、柑橘系の香りが希望を打ち砕く。
あれは、センパイしか持ってない限定ものの香水。
向「やっぱ遅いし送って帰ったろか？」
「大丈夫だよ。康二は心配性だなぁ笑」
向「ホンマかぁ？笑」
センパイと"康二"って人は名前で呼び合う仲、なんだ。
俺のことは"翔太"じゃなくて"しょっぴー"って呼ぶくせに。
俺、入る余地ねーな。
そう自覚してしまったら、俺はその場から立ち去るしかなくて。
ひたすら無心に走って、家に着き次第ベッドに身を放り投げた。
枕に顔をうずめると、さっきのセンパイの残り香が漂う。
渡「センパイ……」
ずっとセンパイは俺のものだって思ってた。
何だかんだ言いながら、俺らは両想いなんじゃないかって。
でも、それは自惚れだったんだな。
できれば、明日になってほしくない。
センパイにも、あの"康二"って人にも会いたくないから。
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作者名：美月 | 作成日時：2020年1月31日 22時
