28話 ページ28
『木暮』
ベンチから手招きして蒼龍が木暮を呼ぶと顔をグッと近づけた。いきなり整った顔が目の前に来たことに驚き肩を大きく揺らしたが目鏡を睨み付けた表情のままで「なんだよ」と不機嫌そうに言った。
『昨日今日会ったばかりの人を信じるってそりゃ難しいことだけど音無は君のプレーをみて信じるって言ってるんだ。プレーは嘘をつかない、信じなくてもいい、でも、その思いに応えてあげて』
「思いに応える…?」
心を見透かすようにジッと目を見つめられながら話した蒼龍の言葉を口にした。思いに応える…自分に出来るのか…そんな考えが木暮の頭を支配し無意識のうちに両手を強く握っていた。
「大丈夫木暮くんならやれるよ、私信じてるから」
春奈の言葉にハッとしたように顔をあげた。目の前にあった蒼龍の顔はいつのまにか離れていて、静かにフィールドを、いや、フィールドにいる誰かを見ていた。
春奈を睨むときつい口調で
「あのさぁ、信じるってそんな簡単に言うなよ」
それだけ言ってさっさとフィールドへと向かっていった。
「どーなんですかねぇーあの態度!」
「ちょっと心配かな」
「木暮くんはやればできるんです…皆本当の木暮くんを知らない…」
木暮をまっすぐに見つめる両目には強い光があった。
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作者名:南極 | 作成日時:2019年11月29日 20時