「目を呑む」 (ページ8)

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「私たち、勝つ気ないから。」

初めての公式戦。試合前のミーティングでエースの先輩が言ったのは、敗北宣言。

「うちら別にガツガツやりたいわけじゃないしさ。みんなでワイワイできればいいから。エラーしても気にしないから。ゆる〜くがんばろ！」

あはは、と自嘲気味に笑って帽子をポイ、投げ捨てる。ミーティングの少し厳しい雰囲気を保っていた糸が切れたように、周りの先輩方も続いて表情を緩める。

「確かにね〜。一点取れたらすごい方じゃん？」

「点数奪うの！？えサイコーすぎホームラン打とっかな〜！」

冗談っぽくバットをスイングするようなジェスチャーをする。冗談にしないで打てばいいのに。打とうと頑張ればいいのに。

試合が始まっても散々で、見ていて嫌になるくらいだった。ベンチで応援と仕事をしていたけれど、途中で投げ出してやろうかと思うくらいだった。

「やばいね、これ。うちら出たほうがいいんじゃない？」

「莉子(りこ)もそう思う？」

ファールボールを拾ってタオルで拭きながら、莉子が隣に立つ。

「んーまあそりゃあね。うちら野球経験者なのになんで出さないんだろ？少なくとも先輩たちよりは上手いじゃん？1年だけど。」

「それは『1年だから』が全てなんですよー残念ながら。わかります奥さん？この理不尽さ！」

拭いたボールを審判に届けると、一緒にため息をついて試合を眺めた。

2回裏、相手チームの攻撃。アウトカウントは2アウト。時間は50分を経過したといったところだろうか。相手に押されてなかなかアウトが取れない。

単純なゴロのエラー、送球の荒さ。ピッチャーの制球の悪さ、それを止められないキャッチャー…先輩方に言うのも良くないが、これまでの2年、3年、何をしていたのだろうかと思えるほどだった。

普段の練習を見ていたから、押されるだろうとは思っていたけれど、実際目の前で見ると改めて落胆させられる。

「ほら梛！そんな顔しないの！眉間にありえないくらい皺よってるよ？」

「ぐえー、引っ張んなよー。」

頬を引っ張ってクスクスと笑う。そしてその笑いは段々大きくなっていって、最終的には腹を抱えて笑いを押し殺す。

「ええ…？そんな笑うとこだったぁ？」

「無理無理やめて…！喋らないで…全部ツボだから…っ！」

ふと視線を感じて我に返り、冷や汗を流しながら莉子を立たせる。サードの先輩がフライを取ってやっとスリーアウトだ。

次は自分たちの攻撃の番。少しでも点数を返せるといいのだが。