目を○○○ ページ3
小学校4年生の春。
バスケの新人戦は初戦から大敗を喫し、ミーティングでコーチに怒られ、6年生のチームメイトからも嫌味を言われた。
何を言っているのか全くわからない。でも、一回りも二回りも大きい人たちに長時間延々と説教をされるのは本当に怖かった。
㉔は泣き虫だった。練習メニューがわからないとき、コーチに怒られたとき、6年生に嫌味を言われたとき、いつも泣いていた。
なんでそんなことで、と言われるようなことでも、㉔にとっては本当に辛くて苦しくて、嫌なことだった。
そんな㉔をいつも慰めて寄り添ってくれた元キャプテンのマコちゃんは卒業して居なくなってしまっていた。
㉔にとっては、バスケの少年団に行くことは拷問のような、恐怖の場でしかなかった。
試合の帰り、いつものように母親を探し、家に帰るため車に乗り込んだ。
いつもなら家まで送ってもらい、その後1人で留守番をするのだが、その日はまっすぐ家には帰らずに弟の野球の試合を見に行った。
試合が行われていたのは小さな河川敷のグラウンド。行われていたのは4年生以下の人達の試合で、㉔よりも小さい子もたくさんいた。
大きい声を出しているのに、不思議と怖くない。むしろ気分が高揚するようで、ひとりひとりの仲が良さそうに見えた。
何より、屋外だから頭の上には青い大空が広がっている。バスケみたいな、狭くて苦しい感じがしない。
息が、できる。
空気ってこんなにあったんだ、と心から感動した。
弟のチームは3アウトを取られ攻守交代した。父親も弟も野球をしているから、なんとなくルールはわかる。
マウンドにあがったのは㉔と同じくらいの背丈の女の子だった。色素の薄い茶色の癖毛を後ろでひとつにまとめている。
その女の子は次々と三振を取り、誰にも打たせることがなかった。
「すご…」
彼女がこちらを見たような気がした。
はっきりは見えないけれど、その瞳は金色に輝いていた。
その輝きは計り知れないもので、ブラックホールのようにすべてを吸い込んでしまいそうだった。
気づいた時には弟のチームの試合は終わっていて、母親はいなくなっていた。しかし次のチームの試合が始まったので、㉔はしばらく川の匂いが漂う河川敷での試合を見ていた。

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作者名:ペンギンとバタートースト。 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/syouyou-hinata/
作成日時:2024年3月24日 14時