黄色短編集 (ページ29)

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スピカ　　　☆2 ページ29

それも、いつも通りの光景。
舞台の背景として描かれている絵なんじゃないかと一瞬疑うほど、ずっと同じ姿勢を保ってる。

「もしかしたらゲームの中の呪文で石化されたか？」と心配してよく見てみると、細かく素早く指が動いてる。

――――よかった、石化はしてなかった(苦笑)

目線はずっと画面に注がれてる。
その姿は、私が居てることを忘れてんじゃないかとしょっちゅう思わせる。

でも、その背中は他人の存在を拒絶するどころか、実はこの空間にいる人間をすっかり受け入れてたりして。
許容してるあまり、こんなにも無防備に意識をゲームにだけ向けていたりして。

その猫背な背中は、私がここに居ることがあまりに普通で、普段で、当然のことだと言っている。

いつもと同じその姿に安心して、また視線を少し移動する。

そこから少し離れたところでは、空気清浄兼加湿器が静かに仕事してる。
おかげで部屋の中は、ちょうどいい湿度に保たれている。
きっと部屋の中のウイルスも吸い込んで飲み込んでくれている。

――――毎日ごくろうです。

私は空気清浄器兼加湿器に敬意を払って、また視線を動かす。

天井からLEDライトが明るくその全てを照らしてる。
いつもと同じ景色を明るい光で包んでる。

どこも変わってない。いつもと同じ。
そのことにホッとする。

その光景を、定位置の、ソファの足元でペタンと座ってる私が眺めてる。

これもお決まりで、これら全てでワンセット。
これがいつもの、私たちの『日常』だ。