黄色短編集 (ページ18)

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Waiting for you　　　☆2 ページ18

「・・・・・・・えーっと・・・・」

頭上で傘に雨がバタバタと当たってる音がする。

目の前には、びしょ濡れの男。

びしょ濡れのくせに、そんなに悲壮感はない。
上目遣いに、ペッタリ貼り付いた前髪の隙間から、犬みたいな茶色の目が覗いてる。

・・・・・・・犬？

じゃないない！

何この人。
頭おかしい系？
それともヤバい系？

うん、無視するべきだろ。

そう決めた瞬間、また、

「くぅ～ん。」

って言った。

いや、確かに犬っぽいけどさ。
人間だし、あなた。

これ、絶対ヤバい系だよね。
関わったらいかん、いかん！

踵を返そうと決めた瞬間、

「―――へっくし！！」

犬みたいな人間が、おっきなくしゃみをした。

見ると、顔は平気そうだけど体震えてる。
唇も青紫みたいになってる。

２歩だけ前に進んで、その子の上にも傘がかかるように差し出す。
もちろん、私が濡れないこと前提の親切。

雨が少し避けられたからか、私に向かってその犬っころ人間は微笑んだ。

「おねーさん。犬、飼いたくない？」

その犬っころ人間が口を開いた。

ああ、一応日本語は喋れるらしい。

英語だったらすぐに踵を返したね。
だって私、英語全然分かんないもーん。

「飼いたくないし、飼えないよ。賃貸だから。」

「でも、人間のナリした犬なら大家もご近所も騙せるじゃん？」

「自分以外の生き物養えるほど、お給料もらってないから。」

「オレ、そんな食わないよ？」

いやいやいや。

そもそも、あんた人間じゃん。
どこに見ず知らずの男連れ込むバカいるんだよ。

あー、都会って怖い。
東京って怖い。

「自ら危険を呼び込むほどバカじゃないから。」

ん。

と傘を差し出す。

「バカじゃないけど慈悲深いから、この傘はあげる。じゃ。」

なるべく濡れたくないから、エントランスへと走る。