風邪 ページ21
｢けほっ、、がほっげほげほっげほげほげほげほっ｣
いつものように朝6時にカズの部屋に来る。
聴診器を温めながら扉を開けばこの様だ。
シーツに少量嘔吐した跡が見える。
｢おーおーおー、、きついね、｣
何十年も医者をやってるくせにかけられる言葉はこれくらいしかなくて、、。
高熱で寝返りもうてないのか、仰向けになって、顔だけが横を向いている。
これじゃあ下手したら気道が塞がってたぞ。
｢横向こうね｣
そう言って体を横に向けると、その振動でさらに刺激されちゃって、酷く咳き込む。
｢先生！｣
早い段階でPHSで応援を要請したおかげで、数人の看護師が来る。
病室じゃ対処しきれなくて、1番近い処置室まで運ぶことに。
｢先生、風邪でしたっ、、｣
急いで血液を調べると、ウイルスに感染してることが分かる。
ただの風邪でもカズの場合は命取りだから細心の注意を払わないといけない。
喘鳴さえも小さくなってしまったカズの気管支を内視鏡で覗けば、隙間が全くなくて、空気も何も通さなそうな感じ。
急いで気管支サーモプラスティという施術を行う。
熱で分厚くなった気管支を広げる治療法だ。
これは本来、18歳以上、重度気管支喘息、容態が安定してる、といういくつかの条件をクリアしてから行わないといけないんだけど、一刻を争う事態だから、もうそんなの無視するしかない。
腕の他に鎖骨下静脈に針を刺し、そこからガンガン点滴を流し込む。
無理やり広げた気管支。カズの顔色はだんだん色を取り戻す。
とは言っても、熱で赤らんでるだけなんだけど。
カズの大っ嫌いな尿道カテーテルも、経鼻経管栄養法のために鼻から入れるチューブも、ピコピコとウザったい心電図モニターも、何もかもを取り付ける。
操り人形みたいにたくさんの管に束縛されたカズ。
昨日まで元気に学校に通ってたのに、ここまで悪くなるなんて、、何回もあった事だけど、慣れない。
震える手でカズの高校に欠席の連絡を入れる。
｢しばらく、、休ませます、、、｣
声が震えるのを抑えるように短くそう伝える。
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作者名：賞味期限 | 作成日時：2022年8月27日 3時
