PARACAGE 3rd【ars】 (ページ4)

今日:1 hit、昨日:31 hit、合計:1,659,490 hit

74.ふわふわ揺れる。ページ4

結局、時間が無くなってしまってメイクは中途半端。
伊達眼鏡を掛けて、誤魔化す事にした。

潤くんは私が準備をしてる間に、もう出勤していて。
翔さんは庭の木々にホースで水をやっていた。

「翔さん、行って来ます！」

家の中から縁側に向かって声を掛けると、振り返った翔さんが「いってらっしゃい！」ってホースを持って無い方の手を振ってくれたから私も振り返す。

玄関で靴を履いてるとニゴがすり寄って来た。

「あら、ニゴ。おはよ」
「おはよ、Aちゃん」

一瞬ニゴが喋ったのかと思う位の自然さで聴こえた声の方に目をやれば、智くんが階段を降りてきている。

「おはようございます」
「お仕事、頑張っておいでねー」
「フフッ、はい」
「...あれ？」

ふわりと笑ってた顔が真剣な表情になって「ちょっとごめんね」って、彼の両手が私の顔に伸びて来た。

そして、眼鏡を取られ顔をジィっと覗き込まれる。

「泣いた？」

鼻に掛かったような優しい声。

「どした？」

目尻の下がった、優しい目。

「目、赤いよ？」
「...あ...眠たくって！寝不足かなー...アハッ」
「それだけ？」
「...うん、それだけ」

うんうん、って笑って頷いてみせる。

智くんは、フゥン...って小さく息を吐いて

「何かあったら、話聞いてあげるからね？」

眼鏡を、また私に掛けてくれた。

「大野さん、邪魔」
「いてっ！」

智くんが背後からニノくんにお尻を蹴られてる。

「オレは！今から！仕事に！行くの！自由気ままなアナタとは違うの、どけ！」
「Aちゃん、聞いた！？おれだって仕事してるよね！」
「そうだよ、ニノくん。今のは失礼です、智くんに謝った方が良い！」

三人で玄関でギャーギャー騒いでると、庭に居る翔さんから「こらー！うるさいよー！」ってよく通る声で怒られて

「翔ちゃんの声が一番でかくね？」
「翔くん、よく通る声してるからね」
「でもとっても良い声です、翔さん。イケボってやつです、イケボ」

そんな事を、ヒソヒソ話した。

ニノくんと一緒に家を出て、駅までの道を歩く。

「眠たいですねー...」
「うん、週明けの早起きは大人になっても慣れないねー...」

いつも私より早く出勤してる潤くんとは違って、フレックスで働いてるニノくんとは時々出勤時間が一緒になる。

「でも、月曜は嫌いじゃ無い」

ニノくんのふわふわの髪が、風で揺れる。

その横顔に「何で？」とは、訊けなかった。