PARACAGE 3rd【ars】 (ページ22)

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92.雨粒。ページ22

約束通り、ニノくんに牛丼屋さんに連れてって貰って一緒に並んで食べた。
久々の牛丼は美味しくて「大盛りでも良かった」って言ったら「男子か」って女子みたいな男子に言われる。
虚しい。

帰る前に智くん用のお持ち帰りの牛丼もニノくんが頼んでくれて、それをぶら下げて店を出た。

店の外で傘を広げると隣でビニール傘を広げたニノくんが「これ、オレのじゃない」って言う。

「ニノくんの傘がどれなのか分からなくって」
「ベージュの」

言われて頭の中で傘立てを思い出してみた。

「あ、黒いパイピングの？」
「そうそう」
「あの傘、可愛いと思ってた！」

シンプルなのに洗練されてるなぁと思ってた。
さすがアパレル従事者。

「Aの傘も可愛いね」
「うちのお店の新作なんですよー」
「へぇ」

可愛いな、って私の傘をマジマジ見てる目が上目遣いになってる。

「オレの知り合いの話なんだけどさ」

上目遣いのまま、ニノくんが何やら話し始めた。
パタパタと傘に雨が当たる。

「雨予報の日に、わざと傘を持って行かないらしいの」
「え？雨予報なのに？」
「そ。晴れてても鞄に入れてる折畳み傘もわざわざ出して出掛けるんだって」
「何で？」
「傘を1本にする為に」

視線を下げたニノくんがチラリと私を見る。

「雨の日に傘を持ってなかったら、好きな人が自分の傘に入れてくれるから」
「あぁ、なるほど！」
「逆に前触れも無く突然雨が降ったら、自分の持ってる折畳み傘に彼女を入れてあげられる」
「何か健気ですね！」
「...計算高いだけだよ」

小さな笑いと共に、吐き出すような台詞。
彼の横顔は笑顔なのに、何故だか悲しそうに見えた。

「...ニノくん、人は自分の事を話す時に『知り合いの話なんだけど』って前置きする事があるって知ってますか？」
「ンフフ、何のこと？知り合いの話だよ？」
「.....」
「でもね、その知り合い。今日は計算違いだったんだって」
「計算違い？」
「彼女が傘を持ってなかった」

雨粒が、傘にパタパタ。
パタパタ、落ちる。

「その上、仕事終わりの旦那が車で迎えに来た」

やっぱりその横顔は笑ってた。

「会社から駅までのほんの数分だけ相合傘出来るのが好きで、雨大歓迎だったんだけどね」
「.....」
「って、知り合いが言ってた」

フゥって息を吐いたニノくんが、傘を少し後ろに倒して雨粒を落とす。

「何であの人迎えに来たんだろ...」

独り言なのか私に言ったのか分からない小さな声に、何も言えない。