PARACAGE 3rd【ars】 (ページ20)

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90.電話。←5.22 ページ20

ザーザーと、雨音だけが部屋に響く。
ニゴが智くんの背中でモゾモゾ動いた。

「智くん」

返事が無い。

「そんな所で寝たら風邪ひくよー？」

大きく開けてる掃き出し窓から、肌寒い空気が流れ込んでくる。

洗面所から大きめのバスタオルを持って来て智くんのお腹の上に掛けてから、窓を閉めた。
ちょっと雨が吹き込んでたらしく縁側が少し濡れてたから、雑巾でそれを拭いてリビングに戻る。

ソファに置いてる雅紀くんの洗濯物。
智くんは部屋に放り込んでおけば良いって言ってたけど...
このままポイっと入れとくのは気が引けるから、ランドリーバスケットに詰め込む事にした。

バスケットの中に洗濯物を入れて、最後一番上に例のシャツを乗せる。刺繍が見えないようにして。
それを抱えて二階に上がる。
柔軟剤の香りが、ふわりふわりと鼻に届く。

鶯色のドアの前で、立ち止まって考えた。
これは部屋の中に入れておくべきなのか...？
え、勝手に部屋に入っても良いものなの！？
智くんは普通に言ってたけど、それって男同士だし！

「...どうする...」

うーん...と暫く唸る。

そうだ、ドアの前に置いておこう。
そんな邪魔にもならないだろうし。
帰って来るって言ってたから、今日中には部屋の中に入れて貰えるはずだし。

「よし」

抱えてたバスケットをドアの前に下ろして、そのまま私は自分の部屋に入った。

自分の洗濯物を畳んだり、本を読んだり、最近やり始めたスマホのゲームをやったり。
そんな風に時間を過ごしてる内に、窓の外は真っ暗になっていた。
そう言えば、お腹も減ってる。

「雨、止んでないのかぁ...」

雨音は、相変わらず続いてる。
ザーザー、ザーザーと地面と屋根を打ち付ける音。

その音に混ざって、電話の着信音が聴こえて来た。
テラハウスには固定電話がある。
町内会の連絡なんかもあるからだ。その電話が鳴ってる。

急いで階段を降りて、玄関にある電話の受話器を上げた。

「はい、もしもし。櫻井です」

『テラハウス』は通称だから、電話に出る時は『櫻井』と名乗るように言われてる。
自分以外の苗字を名乗るのが何だかちょっと照れ臭いのは、女子のサガな気がする。

「あーA？」

受話器から聴こえて来た、少年声。

「ニノくん？」
「うん、ニノくん。ねぇAー、雨降ってるぅ」

急に甘えた声出して来た。

「傘持ってないんだよねぇ」
「うん...」
「迎えに来て欲しいなぁ」

ニノくんがンフって笑う。