PARACAGE【ars】 (ページ5)

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5.TERA。ページ5

「あれ。見える？」

いつの間にか隣じゃ無く背後に立ってた二宮さんの顔が、私の肩越しにニュっと出て来て

背中から覆い被さるような形で「あれ」って言いながら腕を伸ばして、その建物を指差す。

目の球だけを動かして顔の真横にある彼の横顔を見ると、何でも無い顔で前を見てる。

......近い。
突然の呼び捨てに加え、この距離感。同性でも躊躇うこの距離感。

出来るだけ不自然じゃないように前に一歩出て、二宮さんの体からスルーンと離れてみる。

「...あっ、あれ！お寺さんですか！？」

わっ！声が上ずった！

「ンフフ。うん、お寺さん」

笑われた。

「ここの家主は、あの寺の爺ちゃん」

あ、そのお爺さんがゲンさんのお友達なのね。
お坊さんなのか。

「その爺ちゃんはもう引退してるんだけどね。今、坊さんやってるのは息子と孫」
「そうなんですか」
「寺の家だから、『テラハウス』。マジでダサいんだけど、爺ちゃんが考えたらしいから誰も反対できないのよ」

ダハハ！と笑った二宮さんが「だから、テイラー・スウィフトは聴こえて来ないよ」って言う。

「聴こえて来るのは、孫のお経だけ」
「お経...」
「ダイジョブ、ダイジョブ。無駄に良い声だから怖くないよ」

別に怖いとは言ってないんだけど、確かにお経が聴こえる家はトイレに一人で行くの怖くなる系かもしれない。

「さて。部屋、案内するわ」
「あ！はい！」

床に倒しておいたキャリーを、二宮さんが持ってくれた。

「あっ、自分で持ちます！大丈夫！」
「でも二階だから階段あるし」
「私、そんなに弱くないです！」
「弱いとか強いとかじゃなくって、Aは女子じゃん」
「......」

...なんにも言えねぇ...

何このモテ力の高さ！
計算！？

ちょっと待って、よく見たらこの人って凄いカワイコちゃんじゃない...？
肌の色も真っ白だし髪なんかフワフワしてて、手足もほっそい。

そんなカワイコちゃんが軽々と私のキャリーを抱えながら、「あっちが風呂で、そこのドアが便所」と若干雑な言葉遣いで説明しながら前を歩いてる。

階段を上がると、そこには廊下を挟んで両側にドアが並んでる。

「わ、綺麗」

そう言ってしまったのは、それぞれのドアに色が塗ってあったから。

右側の手前から青色、黄色、紫色。
左側は赤色、緑色、その奥の部屋は白。

そのどの色も原色の派手なやつじゃ無く、渋い和風な色。

「Aの部屋は一番奥ね」

二宮さんが、白い扉の部屋を指差して振り返った。