PARACAGE【ars】 (ページ18)

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18.信じない。ページ18

目の前で『モデル・咲』が私の作ったお蕎麦を食べてる現実なんて、彼のファンになった頃の自分に言っても絶対に信じて貰えない。
ってゆーか、一時間前の私だって信じない。

そもそも、お蕎麦作ったらそこで私のお仕事はおしまいだと思ってたから気持ちを落ち着かせる為にも部屋に戻って一人になるつもりだったのに。
ダイニングに座った雅紀くんの側を通り過ぎようとしたら「もう行っちゃうの？」なんて言われて...
そんな事を憧れの人から言われて、素通りなんて出来ない。

私は黙って雅紀くんのお向かいに座ってしまって、この状況。

雅紀くんはほっぺたをいっぱいにして食べる。
食べてる姿も、初めて見た。
美味しそうに食べる。食べながら時々、んふーって笑う。

リビングからはいつの間にか翔さんが居なくなってた。
どうやらお風呂に行ったらしい。
残ったニノくんは床で腹這いになってニゴとにらめっこ。
智くんはソファに寝そべって、うたたね。

「Aちゃん、美味しかったー！ありがと！」
「あ...とんでもないです...」

ズズズっとおつゆを啜った雅紀くんが「ごちそうさま！」と手を合わせた。
そのまま他の皆と同じように、自分の使った食器をキッチンに運んで洗ってる。

お風呂の方から、ガラガラピシャンと引き戸が開いて閉まった音。

「あ、翔ちゃん出て来たっぽい？」

キッチンから顔を出した雅紀くんと同時に、バスタオルを頭に被った翔さんがリビングを覗いて「お先、おやすみなさい」と手を振った。

「じゃあ、俺お風呂入っちゃうねー」

ニノくんが「はいよー」と応える。
智くんは相変わらず寝てる。

やっと部屋に戻れる...と私がダイニングチェアから立ち上がったら、雅紀くんがこっちを見た。

「一緒に入る？」

丸い目が、半月型にキューっと細くなる。

「...へっ？」
「お・ふ・ろ」
「え...えっ！？」
「なーんてね！」

タハハッ！って笑った雅紀くんがダイニングから出て行った。
私はそのまま、ストンと椅子に再び着席。

ひ...膝の力が抜けた...

腰砕けって、こーゆーこと？ちょっと違う？
とにかく脚に力が入らない。

「面倒でしょ、アイツ」

二ゴと顔を合わせたまま、ニノくんが言う。

「や...面倒って訳では...」
「気を付けてね？アイツの言うこと、全部間に受けてたら頭おかしくなっちゃうから」
「頭が...」
「心が、の方が正しいかなー」

ねー？二ゴー、って彼はふわふわと笑った。