PARACAGE【ars】 (ページ11)

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11.お蕎麦の初対面。ページ11

「おかえりー、蕎麦食うー？」

玄関に向かって、ニノくんが大声を出した。

「あー、食うー」

返事は返って来たけど、声の主がダイニングへ入って来る事は無く階段を上がって行く音。

「着替えに行ったのよ」
「スーツじゃ寛げないもんね」

ニノくんが私に言うと、智くんもお蕎麦を啜りながら言う。

「あ。じゃあ私、もう一杯作って来ますね」

私が立ちあがると、翔さんが「ありがとう」と微笑んだ。
この人に念仏唱えて貰うと間違い無く極楽浄土に行けるわ...と本気で思ってしまう。

キッチンでお出汁をもう一度火にかけて温めながらお蕎麦を茹でて、お葱が私達が使って少なくなってたからちょっと切って...ってやってたら、ダイニングに人が入って来た気配がした。

...緊張...。

「あぁぁ...マジで疲れた...」

声だけ聴こえる。
全然テンション高くは無い、むしろ逆。
どんな顔して出て行くのが正解？

ってゆーか、初対面でお蕎麦持って登場すんの！？私！

「Aー、蕎麦出来たー？」
「あっ...！はい！」

ニノくんに呼ばれて慌てて返事をしたら、「A？」って怪訝そうな声。

お盆にお蕎麦入りの丼を乗せて、ソローっとキッチンから出るとさっきまで空いてた智さんの右隣に座った人が頬杖をついてこっちを見てた。

切れ長の大きな目に、ぽってりした色っぽい唇。
ふわりとした髪に、黒縁眼鏡。
それは部屋着なのか...？と問いたくなるオシャレなカットソーとゆるいパンツ。

「あ...えっと、今日からここで暮らす事になった寺坂Aと申します...あ、26歳です」
「あぁ、一人増えるって言ってたっけ」

彼は私じゃなく、隣の隣に座ってる翔さんに話しかけた。

「忘れてた？」
「忘れてたってより、自分の仕事で精一杯で他の事まで頭に残しとく余裕無し」
「どんなに忙しくても、心を亡くさないようにね」

翔さんが穏やかに彼に言い、お蕎麦を持ったまま立ち尽くしてる私に「せっかく美味しいお蕎麦が冷めてしまいますよ？」と優しく声を掛けてくれた。

やっと動き出した私はペコペコしながら「失礼します...」と、その彼の前にお蕎麦を置く。

「ありがと、いただきます」

全然こっち見てくれないけど。
でもお礼は言ってくれた。

とりあえず、さっきまで座ってた席に戻って食べかけのお蕎麦を啜る。

「...うま」

斜め前の彼が、ボソっと呟いた。

湯気で曇った眼鏡を外した彼に

「あんたが作ったの？」

と、訊かれて「はい」と頷く。