121．……忘れさせてやるよ ページ21
「……あんなこと、何で言ったの？」
「別に俺の勝手だろ」
二人しかいない部屋で隼人に声をかける。彼は綱吉の前で私のことが好きだと言った。言葉に詰まった私を助けてくれたんだ。……本当に、優しい人。
隼人の言葉を聞いて呆然と立ち尽くし目を見開いていた綱吉は、私の反応を見てすぐに「俺、邪魔してごめんね」と俯いた。私を振った人の顔じゃないでしょ、なんて考えながら黙っていると、彼は最後に一言呟き部屋を出ていった。
『Aが無事でよかったよ。……ごめんね』
＿＿ねぇ綱吉、ごめんねの意味教えてよ。
告白を断ったこと？
京子が好きなこと？
そんなつもりがないのに側にいたこと？
幼馴染で、ごめんねってこと？
思い出した綱吉の言葉に手に力を込めてふと我に返る。……私、まだ隼人の服を握りしめていたんだ。そっと離すと彼の服の裾はしわくちゃになっていて、意味もなく泣きそうになった。
「A」
「……ん」
ぽん、と頭にのせられた隼人の手のひら。何も言ってないのに、察したように側にいてくれる彼の優しさが胸を締め付けた。隼人の気持ちがわからない。今も傷つけてるのかな。……私どうすればいいの。
綱吉に振られたばかりで気持ちの整理がつくはずもなく、風邪で弱った身体や思考のせいで上手く笑えない。どうするべきなのか、何もわからない。ただひたすらにそんなことを考えていると、隼人が「10代目が何を考えてらっしゃるのかはわからねーが」と口を開いた。
「もう嘘つく必要ねえってことだろうからな」
「……嘘って？」
「聞くんじゃねーよ鈍感女」
「ねぇ、いつも急な悪口辞めてくれる？」
「てめーは変なところで鈍感なんだよ！自覚しとけ」
他人の気持ちには敏感だから鋭いほうなんだけどなぁ。……綱吉の気持ちにも気付いていたし。突然言われた鈍感発言に若干落ち込みつつも、気持ちを明るくさせようとしてくれている隼人の努力が伝わり、思わず笑ってしまった。
ふと名前を呼ばれ顔をあげると、隼人は切ない表情を浮かべて「すぐに忘れろとか諦めろとか、もう言わねーからよ」と静かに続ける。
「……忘れさせてやるよ」
「……うん。ありがとう、隼人」
「覚悟しとくんだな」
いつも落ち込んだ私の支えになってくれる隼人の言葉が嬉しくてたまらない。その日私は初めて綱吉のことを忘れられる気がした。京子のことが好きな綱吉を諦めるためにも、私のことを好きでいてくれる隼人を好きになりたいと思ったんだ。
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作者名：√A | 作成日時：2022年8月22日 13時
