彼女はもともとⅢ (ページ14)

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兄の背中ページ14

金属音とレコード
踊る私と兄
一歩も動かない主従たち

私のお披露目会のときの会食…パーティーと文面だけならば同じだが

行われているのは命のやり取りだ。

やはり兄はとても強い。
サーベルを父からもらって以来、一日欠かさずと行っていた稽古。
戦争に行くわけでもあるまいしと思っていただろうに、毎日欠かさず腕を上げ続けていた

そんな彼と、非力なナイ姉様に簡単にねじ伏せられてしまう私。

力の差は歴然だった。

(そんなに軽く薄く切るだけなんて)
『んっ、ふっ…ひどい人っ…！』

あなたが優しさを見せれば、見せるほど私はやってる罪悪感が私を覆う。

「…イソップ・カール。頼んだよ。」

「しかし！」

カミラは大声で叫ぶ。
イソップくんだったか。やっぱり

二人がそんな悲しそうな顔をするから私も私で残酷な殺し方はできない。
　
目配せをすると、覚悟を決めためいどさんが、構えて兄様に近づいた
至近距離だ。
それでも気が付かない。

気付かせない

攻防戦では兄が彼のグルカナイフを飛ばして勝った

がくんと目の前の兄が力を失う。

申し訳ないと思う気持ちと、嬉しいと思う気持ちが交差した。

『私が一枚上手のようね』

攻めの体制ばかり取っていたお兄様は、私の使用人には全く気づかなかった。

そもそも兄弟の喧嘩のようなものだから大丈夫だとでも思ってたの？？

キッと後ろを睨みつける。
兄様の後ろにはめいどさんがナイフを持って初めての殺傷に、戸惑っているようだった。

崩れ落ちる兄の背中を支え、しっかりとナイフが刺さるようにしてあげる。

兄の背中はしっかりしている。
背中はとても遠くって、ついていくのに必死ででも、兄本人から突き放されて
それでもついていこうと必死で
もがけばもがくほど焦っていって、
周りにおいていかれて

周りに比べられて

辛くて

生きてるのが

嫌になって

死にたくて。

『お兄様なんて嫌い。』

「うん」

『お兄様の助けを待ってた。』

「そうかぁ…そうかごめんなぁ。」

『…謝ってすむなら、こんなのしてない。』

呆気なく散ろうとする命。
私の手の中で、消えようとする命

『昔みたいに、守ってほしかった。
だけど、妹が死んで母が死んでからはあなたは変わってしまったのよ。』

そうだなぁとカヒュッと笑う。

毒も効き始めたのだろう
コポコポと赤い泡を、口の端ににじませた

勝ったのにやるせない。

「今度、また、兄弟になるならば
今度は普通に産まれて」

「普通の関係で…」

レコードは止まってしまった。