彼女はもともとⅢ (ページ13)

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G線上のアリアページ13

出血のひどい足をひきずりながら
長い長い廊下を歩いていた。

やられっぱなしじゃない私達兄弟は、お互いがどちらか死ぬまで、とことん、徹底的に叩き潰す。

“人殺し、姉殺し。”

この家は、ゴキブリホイホイのようなものだ。

入ってしまったら出られなくなる。
それは、この甘ったるい思考を鈍らせる匂いとたくさんの命を狙う機会のせい。

ずっ、ずっと足をひきずりながら、扉の前で一度立つ
すって、吐いて扉のドアノブに手をかけた。

お兄様、と声をかける。自分が嫌に冷静なのがまた、変な感じだ。
ここを出たら、どこに逝こうか。

「…！」

見慣れた人物がそこにいた。
兄の服を着たイソップ・カールがそこにいた。
カミラなのだろうけど、でも、彼にしか見えなかった。

助けに来てくれたんだって思いたかった。

もう、辛くって痛いし、終わりにしたかった。
でも私は…と目の前を見る。

兄がいる。
ゆったりと深く座り、紅茶を嗜んでいた。

パタン、と、扉が閉まる音がしてちらりとこちらに目線をやると、そのまま紅茶に目を戻した。

刃を向けるが、動じることも無くただひたすらにカミラ？イソップ？

あなたから目線を外すことなく紅茶を飲んていた。

G線上のアリア
私の好きな曲、私の好きなレコードをかけていた。

あの人の瞳は私の決心を揺るがせる。

兄は昔から冷淡な人だった。

私に躾を施さなかった唯一の人であり、かと言って、私に危害を加えなかったかと聞かれればそれはNOであろう。

『兄様、あとはナイ姉様とあなただけ。』

抵抗することなく、かと言ってやられるつもりもないらしい。
ティースプーンで私のナイフの刃を受け止めると

そうか。

と言った。

「殺す気はない。ただ、殺される気もない。」

『要するに？』

「やれるものならやってみろ、ってところだな。」

兄は刃を向けるとそのまま私に向き合った。

お前も変わったんだな。と微笑んで

『そりゃ、大きくなれば変わりますもの。』

「体つきとかか？」

『それはセクシュアル・ハラスメントですね
控えめに言って死んでくださいまし。』

「おっと、身長のことだったんだが。」

『あれから。』

あれから食べる事もままならず
身長も体重も変わってないのに。

随分ひどいことを言うのね

兄は申し訳なさそうに私を見た。

ぼんやりと頭の隅で、人肌が恋しいなぁと。
この状況にに使わないことを考えていた。

「A…？」

私は本気よ。

兄に刃を向けて、兄は視線を向けて