夏 に 恋 し た 。2

・ ページ21

Aside。


.


おつかいに行ったらバッタリ遭遇するかなーとか

この角曲がったら会えるかなーとか

インドア派なんて嘘みたいに積極的に外に出てみたのに

あの花火大会がユウに会えた最後だった。


やっぱり役目を終えた魔法使いはもう会いに来てくれないんだ。


海で会った日も、花火大会の日も

優しいユウのオマケだったのかな。


.


ズルズル。


扇風機の回る部屋で

信ちゃんとお昼ご飯に素麺をすする。



「ねぇ信ちゃん？」



村「なんや？」



「最近よくキュ、って音しない？」



村「きゅ？」



「こう…頭に響く感じで…」



村「全っ然わからん！


どんな時？」



「うーん…


あ。」



村「ん？」



「全部…ユウのこと考えてる時…」



村「ユウ？」



「あ、えっと…男の子なんだけど…」



魔法使いなんて言っても信じて貰えないよね。



村「それ、オマエの中で鳴ってんちゃう？」



「え？」



村「よお言うやん！


心臓キュンとするーとか」



それがどういうことか分からないほどウブじゃない。



村「ほれ、恋っちゅーやつや！」



だとしたらユウは私の初恋。


せっかく気付いても

もう二度と会えないなんて

世界はとことん意地悪だ。


.


あっという間に夏休みは終わって

8月の終わり、新学期が始まった。


転校生なんてくすぐったい響きと

新しい制服を身に纏ってリスタート。


初めてのセーラー服に心が踊る。


ムードメーカーな信ちゃんと同じクラスだったお陰で初日から友達も出来た。


うまく息が吸えなくてろくに笑えなかった私はもういない。


ユウの魔法のおかげなのに…


会えないことがもどかしい。


.


お母さんに新しい制服を見せようとお墓に来たら

同じ学校の制服を着た、

黒い髪の男の子がいた。


目を伏せて静かに手を合わせるその横顔には見覚えがある。



「ユウ…？」



私の声にゆっくり顔を上げた男の子。


相変わらず透き通るような白い肌。



横「…ちゃう、侯隆。


俺ほんまは横山侯隆ってゆーねん。」



「きみ…たか」



.


侯隆は信ちゃんの幼馴染みで

私というイトコの存在は知っていたと言う。



横「頑張り屋のイトコがおるって」



「頑張り屋…」



横「まさかオカンの墓参りでたまたま会うた奴が

噂のAやとは思わんかったけどな」



初めて君の声で呼ばれた名前が

自分のものじゃないみたいに鼓膜を震わせる。


些細なことでもドキドキしちゃうのが悔しい。

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す